117.鉄腕の実力者
クロガネシティジムリーダーであるヒョウタ君の父親――トウガンさんが管理するミオシティジムは、はがねタイプ使いが集まるジムだ。ジムの内部はかなりの広さと高さがあり、リフトを乗り継いでジムリーダーがいる場所を目指す仕組みだった。
「シャワーズ! なみのり!」
「シャワーッ!」
ジムトレーナーが繰り出すのは、はがねタイプのポケモンたち。鋼というそのタイプからもわかるとおり、生半可な攻撃じゃ相手はびくともしない。
私のみずポケモンたちは基本的に攻撃力が低いけれど、その代わりに特殊攻撃に優れている。効果抜群は狙えなくても、特殊攻撃技で勝つしかない。
でも、相手は防御力はもちろんのこと攻撃力も高く、一撃一撃が重い。トウガンさんの元に着く頃には、私のポケモンたちはだいぶ体力を削られてしまっていた。
トウガンさんは顎髭を撫でながら、逆の手に持っているスコップを杖のように立てた。
「ほう。みずポケモンを使うチャレンジャーが来たと連絡を受けていたのだが、レインだったとはな」
「はい。トウガンさん。お久しぶりです」
「わたしの息子、ヒョウタとは戦ったか?」
「はい」
「なるほど。そしてこの場にいるということは、勝ったのだな。あいつもまだまだ未熟者だ」
「いえ。勝てたといっても本当にギリギリで、この子たちが頑張ってくれたから」
「シャワー」
「ふむ。その実力も、今はっきりとわかること! 息子のヒョウタに代わってこのわたし、トウガンが相手をしてくれようぞ!」
トウガンさんがまず繰り出してきたのはレアコイル。はがねタイプとでんきタイプを併せ持つポケモンだ。私の手持ちたち、みずタイプのポケモンにとって相性が悪い。
私はランターンを繰り出した。これで、十まんボルトを封じられる。
「行きましょう。ランターン! ちょうおんぱ!」
「きんぞくおんでかき消せ!」
耳の奥まで突く鋭く音波が、ナイフ同士が擦れ合うような不快音でかき消された。ランターンは技を発動させたものの、その効果は相殺されたのだ。
「ラスターカノン!」
レアコイルの三つの頭が触れ合う一点から光の砲弾が放たれて、一撃でランターンを戦闘不能に追いやった。
なんだか、嫌な予感がする。
ランターンをモンスターボールに戻した私は、続いてトリトドンを繰り出した。それを見たトウガンさんは、小さく唸り片眉をつり上げた。
「レアコイルとは相性の悪いポケモンばかりを出してくるな。その点は考えているといえよう。だが!」
スコップの先を私たちの方に差し向けて、トウガンさんは言い放つ。
「相性も、レベルや経験の前では関係ない! レアコイル! トライアタック!」
レアコイルの三つの頭が赤、黄、青、三色の光線をそれぞれ放った。炎と、雷と、氷の追加効果が、同時に襲いかかる。技を受けたトリトドンは氷漬けになってしまった。戦える体力は残っていてもこれでは動けない。戦闘不能と同じだ。
トリトドンをモンスターボールに戻した私は、残ったモンスターボールとシャワーズに視線を行き来させていた。
次はどの子を出す? きっと、どの子を出してもでんきタイプの技の餌食になってしまう。
「さあ、次はどうする! レイン!」
トウガンさんの言葉が私を急かす。頭の中が混乱して、もう誰に何を指示していいのかわからない。
そして……私たちは初めて敗北を経験することになるのだった。