115.ジレンマに惑う


〜side RANTA-N〜

 カンナギタウンを出発して三日。わたしたちは早くもコトブキシティまで戻っていた。
 カンナギタウンからテンガン山の麓を通ってハクタイシティへ。ハクタイシティからハクタイの森を抜けてソノオタウンへ。ソノオタウンから荒れた抜け道を通ってコトブキシティへ、というルートでここまで来た。
 今までは比較的、のんびりと周りの景色を楽しみながら旅をしてきたレインだったけど、この三日間は一刻も早くミオシティに行きたい一心で足を進めていたらしい。暗闇が苦手なくせに、テンガン山の麓を抜けようとしたときは本当に焦った。途中で錯乱されでもしたら本当に困る。
 試しに、わたしがモンスターボールの中からフラッシュを使ってみたら、外に出て使うときよりも効果は劣るけれど、微かに辺りを照らすことができた。もっと早く知っていれば、レインに怖い思いをさせることもなかったのに。
 そんな、何よりも嫌いな暗闇を抜けてまで、会いたい人がミオシティにいる。クロガネシティでレインの手を取り、ロストタワーでレインを救った、波導使いのゲン。

「釣り人たちの名所。218番道路。……ここをなみのりすればミオシティはすぐね」
「シャワー」
「……ゲンさんに、会える、かしら」

 自覚はないのだろうけど、どうやらレインはゲンのことを意識しているらしい。こうやって頬を染めるレインを、わたしは今までに見たことがない。

「ゲンさんに、会ったことがあるっていう、不思議な気持ち……。私とゲンさんの、共通点の謎を、解けるのかしら」

 レインは、ゲンに懐かしい何かを感じているらしい。
 十年前の記憶がないこと。名前が与えられたものだということ。不思議な力を持っていること。クロガネシティのジムリーダーが言っていた事実を、確かめたいらしい。

「少し、緊張、するわ」

 そうね、わたしも気付いていた。レインは昔から、緊張したり追い詰められると、言葉が途切れがちになる。そう、レインは昔から、そう。

「ラプラス。背中に乗せてくれる?」
「ラプー」
「みんなも泳ぎましょう」

 わたしたちをモンスターボールから解き放つと、レインはラプラスの背中に恐る恐る乗った。レインを気遣うようにゆっくりと水を掻き分けて進むラプラスの隣を泳ぎながら、これからのことを案じた。
 ああ、もうすぐレインはゲンに会ってしまう。もし、ゲンに昔の記憶が残っているとしたら、レインは真実を知ってしまうかもしれない。
 会わせたくない、会わせてはいけない。レインが傷付くくらいなら、例えレインが望んでいても、邂逅を許しはしない。
 そのために、わたしはわたしの存在さえ消したのだから。

「早く……会いたい」

 レインは切なげに目を閉じた。過去を知りたいという気持ち以外にも、レインはゲンに会いたい理由を持ち合わせているらしい。理屈じゃなく、自分では制御できない想い。
 ――それはきっと、恋心と呼べるもの。でもそれを、レイン自身は知らない。
 ねぇ、そんなにあの人に会いたい? ……そこまで会いたいと願うのなら、わたしも二人が会えますようにと願ってあげる。
 でも、会わせたとしても、真実は絶対に伝えさせやしない。



Next……ミオシティ


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