112.歴史を語る街


――カンナギタウン――

 テンガン山の麓と渓谷に挟まれた人里離れた小さな町――カンナギタウン。
 昔の歴史と暮らしを現在に伝えるこの町には、その中央にある大きな窪みに太古からある祠が残っているらしい。それを取り囲むように民家が建ち並んでいる、特殊な地形の町だ。すれ違う人はお年寄りが多く、他の街よりも住民の平均年齢が高そうだった。

「うわぁ。なんだか雰囲気のある町だなぁ」
「そうかぁ? なーんにもないぜ?」
「確かにビルや遊戯施設はないけれど、カンナギタウンには他の街にはない古くから残っている建物があるんだよ。ポケモンとの関わりもあると思うし、ナナカマド博士のためにもしっかり調べなくちゃ」
「研究熱心だなー」
「あたしはシロナさんのおばあちゃんにお守りを届けないと」
「シロナさん? ……ってあのシンオウリーグチャンピオンの!?」
「うん」
「長老さんなのよね? だったら、誰かに聞いたらわかるはず。……あの人に聞いてみましょうか」

 ガイドブックにも載っている祠の前に立っているおばあさんに、ヒカリちゃんが話しかける。

「あのー、すみませ……」
「おまえたち、ポケモントレーナーかい!?」
「? はい」
「頼む! 遺跡の前にいる宇宙人みたいな奴らを追っ払ってくれ!」

 宇宙人みたいな奴ら。それだけで、私たちにはおばあさんが言っている人物が誰なのか予想できた。私も、ヒカリちゃんも、ジュン君も、コウキ君も、彼らの――ギンガ団の悪事を今まで目の当たりにしてきたから。

「あそこには何もないのに、それに腹を立てて、爆弾を使うと言っておる……」
「えっ!?」
「爆弾って……」
「あいつら、大湿原を爆破させたときみたいに、ここでも爆弾を使う気か!」
「そんな!」
「わしはもう若くない…ポケモンバトルもうまくできん……頼む! 変な奴から遺跡を守ってくれ!」

 おばあさんの心痛な叫びに、胸が痛くなった。きっと、私たち四人は同じ気持ちだ。
 大湿原での悲劇を目にした私とヒカリちゃんとジュン君はもちろん、ハクタイシティやトバリシティの件でギンガ団の悪事を知ったコウキ君も、躊躇わず頷いた。

「見過ごせない、わね」
「はい。わかりました」
「あたしたちが何とかします!」
「ばーちゃんは安全なとこに隠れてな!」
「おお……ありがとうよ子供たち……!」

 おばあさんが言う遺跡は、祠から数十メートルと離れていないところにあった。
 そこにいるギンガ団は男女合わせて四人。大昔のポケモンの絵が刻まれた遺跡を前に、額を寄せ合って何かを企んでいるみたいだ。
 一番最初に啖呵を切ったのは、ヒカリちゃんだ。

「ちょっと! あんたたち!」
「ああ?」

 男性のギンガ団の低い声色と鋭い眼差しに怯むことなく、ジュン君も前に出る。

「ここを爆破させようとしてるらしいじゃねーか!?」
「そうだ! こんなしみったれた町、何もないならギンガ爆弾で吹き飛ばすのさ!」

 黙ってその話を聞いていたコウキ君は、ギンガ団のあまりにも自己中心的な発言に、静かな怒りを言葉に乗せた。

「ここに住んでいる人たちや、歴史ある遺跡の存在は無視?」
「うるさいガキどもね。邪魔をすると言うならポケモン勝負で黙らせるわよ!」

 二つのモンスターボールを構えた女性のギンガ団を筆頭に、仲間たちが次々とモンスターボールを手に持った。言葉で解決できないのなら、力をぶつけるしかない。
 私たちもアイコンタクトをとり、戦闘態勢に入った。

「この町を破壊させたりしません!」
「ギンガ団の邪魔をするとは、世界に……いや、宇宙に逆らう奴! 極刑に値する!」

 その言葉を合図に、全員が散り散りになって、それぞれの相手と対峙した。
 ギンガ団が繰り出してきたのは、四人全員がデルビルとゴルバットだった。それに対し、ヒカリちゃんはポッチャマとパチリス。ジュン君はハヤシガメとブイゼル、コウキ君はモウカザルとユンゲラー。そして、私はシャワーズとトリトドンを繰り出して、この勝負に勝つ道筋をイメージする。
 ダブルバトルは、一人のトレーナーが二匹のポケモンに指示を出すバトルだ。以前、コウキ君と組んだタッグバトルとはまた違う。ダブルバトルは初めてだけど、勝てる。ううん、勝ってみせる。
 向かってくるポケモンはデルビルとゴルバットの二匹だ。運がよくタイプの相性はこちらに分がある。一撃で、終わらせる。

「シャワーズは、みずでっぽう! トリトドンはめざめるパワー!」

 みずでっぽうはデルビルに、めざめるパワーはゴルバットにそれぞれ命中した。狙ったのは急所、効果は抜群だ。相手はその攻撃だけでダウンした。タイプの相性だけでなくて、私たちは確実に強くなれている気がする。
 みんなはどうなったのかしら。
 辺りを見回すと、倒れているのはギンガ団のポケモンばかりだった。他のダブルバトルも、瞬間的に勝負が決まったみたいだ。
 捨て台詞を吐きながら逃げ帰る彼らを目で追いかけながら、安堵の息を吐く。今度は守ることができた……と。




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