111.濃霧の隠れ里


 カフェやまごやから北側に長く伸びる210番道路は、深い霧が立ちこめている大自然の渓谷を通る道だ。濃霧の影響で肌寒く、一メートル先すらも見えないほど視界は悪い。
 そこで、ヒカリちゃんのトゲチックの出番だ。数回翼を羽ばたかせると、小さな翼からは予想できないほどの風力が発生し、霧を押し飛ばす。それでも、払い切れなかった霧が微かに漂っているけれど、このくらいなら問題なく進める。

「本当にこの道は霧がすごいですね」
「ポッチャー」
「ええ。足を踏み外さないようにしなくちゃ」
「シャワッ」
「そういえば、きりばらいってひでんマシンで覚える技よね? どこで手に入れたの?」
「あたしじゃなくて、ジュンがズイの遺跡で見付けたらしいんです。だから、きりばらいのひでんマシンを借りる代わりに、あたしはそらをとぶのひでんマシンを貸したんです」
「そうだったのね」

 そんな他愛もない話をしながらカンナギタウンを目指していると「おっ! あれ、ヒカリとレインじゃね!?」「ほんとだ! ヒカリ! レインさん!」という声が背後から聞こえてきた。噂をすれば、ね。コウキ君とジュン君、この二人の組み合わせも珍しい。

「よう!」
「ジュンにコウキ!」
「コウキ君とは久しぶりね」
「はい。レインさん、風邪を引いていたって聞いたんですけど」
「もう完治したわ」
「そうですか。よかった」

 二人の後ろでは、ジュン君のムクバードが翼をはためかせて空中に留まっている。

「二人ともカンナギタウンに行くの?」
「はい。ぼくはナナカマド博士の代わりに、カンナギタウンに伝わる神話を聞きに行きます。でも、ぼくのポケモンたちはきりばらいを覚えてなくて困っていたら……」
「ちょうどおれと会ったんだよな! やっぱり、二人ともひこうタイプを仲間にしていたほうがいって!」
「そうだよねぇ」
「そうそう……っ!!」
「「「!」」」

 ジュン君が、視界から、消え、た。四人で横に広がって歩いていて、一番右端にいたジュン君の足場が、なくなったのだ。道が狭まったことに気付かず進んでしまったジュン君は、渓谷に真っ逆様、で。
 急いで駆け寄り、そこを覗き込む私たちの上をムクバードが飛んで行き、真っ逆様に急降下した。
 数秒後、ムクバードの嘴に首根っこを摘まれたジュン君が浮上してきた。

「な? ひこうタイプがいてくれたほうが心強いだろ?」

 何でもないという態度を装いつつも、ジュン君の額には冷や汗が大量に吹き出していた。それに気付いた私とコウキ君は苦笑しながら頷いた。





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