111.濃霧の隠れ里
そこで、ヒカリちゃんのトゲチックの出番だ。数回翼を羽ばたかせると、小さな翼からは予想できないほどの風力が発生し、霧を押し飛ばす。それでも、払い切れなかった霧が微かに漂っているけれど、このくらいなら問題なく進める。
「本当にこの道は霧がすごいですね」
「ポッチャー」
「ええ。足を踏み外さないようにしなくちゃ」
「シャワッ」
「そういえば、きりばらいってひでんマシンで覚える技よね? どこで手に入れたの?」
「あたしじゃなくて、ジュンがズイの遺跡で見付けたらしいんです。だから、きりばらいのひでんマシンを借りる代わりに、あたしはそらをとぶのひでんマシンを貸したんです」
「そうだったのね」
そんな他愛もない話をしながらカンナギタウンを目指していると「おっ! あれ、ヒカリとレインじゃね!?」「ほんとだ! ヒカリ! レインさん!」という声が背後から聞こえてきた。噂をすれば、ね。コウキ君とジュン君、この二人の組み合わせも珍しい。
「よう!」
「ジュンにコウキ!」
「コウキ君とは久しぶりね」
「はい。レインさん、風邪を引いていたって聞いたんですけど」
「もう完治したわ」
「そうですか。よかった」
二人の後ろでは、ジュン君のムクバードが翼をはためかせて空中に留まっている。
「二人ともカンナギタウンに行くの?」
「はい。ぼくはナナカマド博士の代わりに、カンナギタウンに伝わる神話を聞きに行きます。でも、ぼくのポケモンたちはきりばらいを覚えてなくて困っていたら……」
「ちょうどおれと会ったんだよな! やっぱり、二人ともひこうタイプを仲間にしていたほうがいって!」
「そうだよねぇ」
「そうそう……っ!!」
「「「!」」」
ジュン君が、視界から、消え、た。四人で横に広がって歩いていて、一番右端にいたジュン君の足場が、なくなったのだ。道が狭まったことに気付かず進んでしまったジュン君は、渓谷に真っ逆様、で。
急いで駆け寄り、そこを覗き込む私たちの上をムクバードが飛んで行き、真っ逆様に急降下した。
数秒後、ムクバードの嘴に首根っこを摘まれたジュン君が浮上してきた。
「な? ひこうタイプがいてくれたほうが心強いだろ?」
何でもないという態度を装いつつも、ジュン君の額には冷や汗が大量に吹き出していた。それに気付いた私とコウキ君は苦笑しながら頷いた。