104.ラン・アウェイ・ウィズ


 ゲートの中から熱風が吹き出してきて、私たちへ叩きつけてきた。熱い。一瞬にして目の表面が乾いて、痛い。私たちは顔を腕で覆い隠し、その場に体を伏せた。

「きゃあああ!」
「なんだってんだよーっ!?」
「みんな! 身を低くしろ!」

 マキシさんが私たちを抱え込むようにして守ってくれても、肌を焼くような熱に襲われる。今まで感じたことのない種類の恐怖を感じた。
 ようやく熱風が収まったとき、辺りは悲惨な状態になっていた。ゲート内から飛ばされたらしい椅子や植木がそこら中に倒れ、ガラスの破片が散らばっている。大湿原からは人が我先にと逃げ出してきて、中には怪我を負っている人もいるようだった。
 体が恐怖で震える。思った以上に、被害は大きい。
 逃げ惑う人に紛れ、一際目立つファッションの男の人が中から出てきた。ギンガ団、だ。

「ふえー。参ったぜ」
「貴様! 何をしたぁ!!」

 マキシさんが勢いよく胸ぐらを掴みかかっても、ギンガ団はまるで大したことのないという態度のままだった。

「何をしたって、何にもしてないぞ。届いた荷物が爆弾で……ギンガ爆弾っていうんだけどな。ボタンを押せと言われたから押しただけだ」
「爆弾だとぉ!?」
「そうだった! 実験結果を報告しないと……。あばよ! 変なマスクのおっさん!」

 ギンガ団は右手を振り上げ、隠し持っていた煙玉を地面に叩きつけた。煙幕が辺りに立ちこめて、視界を奪う。「ムクバード、煙を晴らしてくれ!」という声が聞こえ、隣でジュン君がモンスターボールを振り上げる気配が伝わってきた。
 強めの風が数回吹いたあとに、目を開けると、視界はクリアな状態を取り戻していた。そこにすでに、ギンガ団はいなかった。

「大切な大湿原を……お前たち! 来るなよ! 誰も入れるなよ! もし爆弾が残ってたら大変だからな!」

 マキシさんは手持ちポケモンたちを出し、それぞれに人の救護や破砕物の処理を命じながら、ゲートの中へと駆け込んでいった。その後をジュン君が続き、ゲートの前に仁王立ちした。

「ヒカリ! レイン! ギンガ団を追いかけてくれよ! おれ! 師匠に言われた通り、中に誰も入らないようにする! だけど、ギンガ団ほっとけないだろ!」
「わかったわ。ヒカリちゃん」
「はい! トゲチック、空からギンガ団を探して!」

 上空へと放たれたモンスターボールから飛び出したトゲチックは、そのまま空へと浮き上がりギンガ団の追跡を始めた。私とヒカリちゃんはトゲチックの後を追って、またしても全力疾走だ。
 トゲチックが向かう方角から察するに、ギンガ団はノモセシティを出て213番道路をリッシ湖の畔方面へと移動しているみたいだ。
 それにしても……ギンガ爆弾、すごい威力だったわ。もしかしたら、あの爆弾を作るために発電所のエネルギーを奪ったり、ナナカマド博士の研究成果を奪おうとしたのかもしれない。これほどまでに高度な科学力を、どうして、正しいことに使えないの……。

「あのギンガ団! どこに逃げたの!?」
「 !あれは……ハンサムさん!?」
「よっ!」

 213番道路を半分ほど走った砂浜で、向かい側からのんびりと歩いてくるハンサムさんに遭遇した。立ち止まると同時に、私は胸に手を当てて必死に息を整えた。

「トバリシティから運ばれた荷物が気になってここに来たのだが、いやーリッシ湖の畔でくつろぎすぎてしまって……」
「爆弾だったんです! ハンサムさん! 大湿原で実験的に爆発が起きて!」
「なにぃ!? 爆弾!?」
「私たちっ、その、ギンガ団を、追いかけているんです。ハンサムさん、すれ違いませんでしたか?」
「しまったー! このハンサム、一生に一度の不覚!
さっき走っていったやつがその爆弾を持っていたのか!! えーい、待て待てーっ!!」
「待ってください」

 踵を返して走り出そうとするハンサムさんを制して、ヒカリちゃんは空を見上げた。トゲチックは遙か遠く、グランドレイクの上空付近を旋回している。

「トゲチックは、はぁっ、グランド、レイクに、っ、向かってるみたいね」
「よーし。キルリア! テレポートよ!」

 ヒカリちゃんが呼び出したキルリアは、念力を体中から滲み出させ、私たち三人を包み込んだ。
 次の瞬間、目に映る景色は浜辺からグランドレイクの外観へと変化した。

「わたしはこのホテル付近で聞き込みをしよう! きみたちはもう少し離れたエリアを頼む!」
「はい」
「わかりました!」

 「なにぃ? ここにはホウエン地方のチャンピオンも泊まったことがあるのか!? って関係ないだろう! 確かに怪しい人物だが自慢話はいいんだよ!!」と、ハンサムさんがホテルの警備員さんに聞き込みしている声を背後に聞きながら、私たちは再び駆け出した。

「あたしは222番道路方面に行きます。レインさんはリッシ湖方面に!」
「わかったわ」

 私は北、ヒカリちゃんは東に分かれて、捜索を開始する。
 今まで出会したギンガ団全員に共通している特徴といえば、独特なファッションセンスと髪型だ。人目を引くから、どこにいて何をするにも目立つ。
 今回も例外なく、リッシ湖方面へと進んでいけば、大湿原を爆破させたギンガ団をすぐに見付けることができた。





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