101.水際のブルーウォーズ


 サファリゲーム騒動から一日が経過し、私たちはノモセジム戦に挑んでいた。
 『ノモセシティ ポケモンジム リーダー マキシマム仮面 ウォーター ストリーム マスクマン』
 マキシさんが統べるノモセジムの仕掛けは、プールの水位を上げ下げしながら移動していくというものだ。
 この仕掛けを見たらわかるとおり、ノモセジムのトレーナーは全てみずタイプのポケモンの使い手だ。巨大プールがバトルフィールドとなるこの戦いは、みずタイプのポケモンがバトルを有利に進められる。
 でも、私の仲間たちもみずタイプばかりだ。つまり、今回の戦いにタイプ上の有利不利はない。みず使いとしての実力が試される戦いだ。……緊張、する。
 ジム内にいるトレーナーたちを倒し、いったんポケモンセンターに戻ってみんなを回復させ、再度ジムへと赴き最後の扉を開いた。一面の青に浮かぶバトルフィールド。……怖くないと言えば嘘になる。もし、ここに落ちてしまったら……だけど、もう引き返せないもの。

「挑戦者はレインかぁ!」
「はい。よろしくお願いします。マキシさ……マキシマム、仮面さん」
「よぉーく来たっ! 水の力で鍛えた俺様のポケモンはぁ! お前の攻撃を全部受け止めた上で勝利するからかかってこぉい!」

 豪快に放たれたモンスターボールから飛び出したのは、巨体を轟かせたギャラドスだ。太く長い竜のような巨体と、威嚇するような紅い目に、圧倒されながらもボールに手を伸ばす。この巨体に対抗できるのは、この子しかいない。
 マキシさんに気圧されないように、私も高くモンスターボールを投げてミロカロスを呼び出した。まずは、水の輪をまとわせて、体力源を確保させなきゃ。

「ミロカロス、アクアリング」
「ほう! ミロカロスの中でもここまで美しい鱗は珍しい! しかし、美しいだけでは勝てんぞぉ! たきのぼり!」
「迎え撃って! たいあたり!」

 巨体同士がぶつかり合って生まれる衝撃が、ここまで伝わってくる。でも、たいあたりとたきのぼりでは威力が違いすぎた。
 ギャラドスの勢いに弾き飛ばされたミロカロスは、高い水飛沫を上げてプールへと沈む。技の格ももちろんだけど、ミロカロスとギャラドスでは体重や種族値的にも攻撃力に差があり過ぎる。

「たつまきで閉じ込めろぉ!」

 水底から水面へと流れる渦に捕らわれて、ミロカロスは動けない。大したダメージにはならないけど……。
 私は、いったんミロカロスをモンスターボールに戻した。最初から切り札には頼りたくなかったけど……

「ランターン、お願い!」
(任せて)
「おおお! 色違いのランターンとは珍しい!」

 ギャラドスはみずタイプとひこうタイプを併せ持つポケモンだ。両方の弱点であるてんきタイプの技で、四倍ダメージを狙い、勝つ。

「ほうでん!」

 ランターンの体中を巡る電流が、体外へと一気に放出される。容赦ない電撃を浴びせ、その一撃で、ランターンはギャラドスを戦闘不能へと追いやった。
 マキシさんはにたりと笑い、ギャラドスをモンスターボールへと戻した。

「水は電気をよく通す! しかしこいつにでんきタイプの技は効かんぞぉ! ヌオー!」
「! ……戻って」

 ヌオー――みずタイプとじめんタイプを併せ持つポケモン。くさタイプの技を使える子がいれば、一番いいのだけど……。

「ジーランス、頑張って」
(うむ)
「ほぉ! さっきから珍しいポケモンを出してくるなぁ!」

 マスクの下に見え隠れする、マキシさんの目がギラギラしている。彼はこういう人だ。いつ、どんな状態でも、バトルを心から楽しもうとする人。それに相手が強いとか弱いとか関係ない。ある意味、デンジ君とは正反対の人なのだ。

「みずのはどう!」
「打ち破って、すてみタックル!」

 みずのはどうを正面から破り、ジーランスはヌオーへ渾身のタックルを繰り出した。ヌオーは無表情を崩さず、ジーランスのタックルを受け止めた。ヌオーはそのまま、ジーランスを水面に投げつけて、自らも水中へと飛び込んだ。

「水中バトル! みずタイプ同士の醍醐味だな! みずのはどう!」
「みずでっぽう!」

 二つの技が水中でぶつかると、そこで巨大な衝撃が生まれ、水面が膨れ上がり、爆発した。爆発の衝撃と共に水上に戻ってきた二匹は、双方とものっぺりとした表情を保ったままだ。

「ジーランスにしてはなかなか素早い! よく鍛えられているなぁ! 動きを封じさせてもらうぞ! あくび!」

 しまったと思ったとき、すでに技は発動していた。眠気を誘う吐息がジーランスまで届くと、ジーランスはそのまま深い眠りに落ちてしまった。

「今のうちに袋叩きだ! みずのはどう連発だぁ!」
「ジーランス!」

 円状の分厚い水が、ジーランスに何度も叩きつけられる。ジーランスはみず・いわタイプのポケモン。みずタイプの技の威力は、それぞれ効果は今一つと効果は抜群だ。つまり、効果を打ち消し合うことになり、みずタイプの技はジーランスにとって通常ダメージと同じ効果になる。こうも何発も食らってしまえば、普通はすでに戦闘不能状態に陥ってもおかしくない。
 でも、あくびを受ける直前、ジーランスの数秒の判断が、いい結果に繋がった。

「おかしい! なぜ倒れんのだ!?」
「ジーランスはただ眠らされたわけじゃないんです」
「なに!? ……ねむる、か!」

 体の機能を休止させて体力を全回復させる技『ねむる』。ヌオーの『あくび』により強制的に眠らされる直前に、ジーランスは自主的に『ねむる』状態に入ったのだ。私の指示よりも早く、自ら最善の判断を下して実行する。戦闘経験の長いジーランスだからこそ、できたことだ。

「いびきとねごとで攻撃よ」

 重低音が、ジーランスの口から漏れる。あまりの騒音にヌオーは耳を塞ぎ、頭を抱えてその場にうずくまった。今が反撃のチャンスだわ。
 眠っているジーランスを引っ込めて、再度ミロカロスを繰り出し、りゅうのいぶきを命じた。
 これで、マキシさんの手持ちの残りはあと一体だ。





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