98.水と共存する街


――ノモセシティ――

 大湿原と生きる街――ノモセシティ。この街を象徴する自然物である大湿原は、大昔、海だった場所から少しずつ水がなくなってできたものらしい。そして、出来上がった大湿原を保護するために、自然と街が形作られたというわけだ。
 大湿原にはサファリゲームという珍しいポケモンをゲットできるエリアも確保されていて、それを目当てにノモセシティに来る人も多い。水が豊かなこの土地にあるジムは、みずタイプのポケモンを操るマキシさんがジムリーダーを務めている。
 ……ノモセシティ。トバリシティで、ヒカリちゃんたちとバトルしたギンガ団が呟いていた言葉が引っかかる。

「ギンガ団が、この街で何かを企んでいるかもしれない……ジムリーダーのマキシさんに伝えるべきかしら……あら?」

 ノモセジムの近くで、ジュン君とヒカリちゃんがバトルをしている。彼らのバトルを一番最初に見たときと同じ、使用ポケモンは彼らのパートナー。ハヤシガメ対ポッチャマだ。
 あのときは皆無に等しかった相性が、今は歴然として目に見える。ハヤシガメのはっぱカッターがポッチャマに炸裂すると、ポッチャマは目を回してその場に倒れた。

「ポッチャマ!」
「よっしゃ! ヒカリに初勝利だぜーっ!」
「悔しいー! ジム戦の直後に挑まれてなかったら、あたしが勝ったんだから!」
「どうだかなー」
「ヒカリちゃん、ジュン君」
「おー! レイン!」
「こんにちはー……」

 二人の表情の差も、あのときとは真逆だわ。きっと、こうして勝利と敗北を繰り返しながら、強くなっていくのね。
 「ジム戦、終わったのね。お疲れ様。バッジは?」と問いかけると、ヒカリちゃんはポッチャマを抱き抱えながら「ゲットしました!」と、少しだけ笑顔を見せてくれた。
 ヒカリちゃんは昨日、そらをとぶを使ってフタバタウンからノモセシティまで来たらしい。「あたし、ポッチャマたちを回復させてきます」と、ポケモンセンターへと駆けていくヒカリちゃんの後ろ姿を見つめながら、ジュン君に問いかける。

「ジュン君も、もうジム戦は終わったの?」
「ああ。ヒカリはついさっき、おれはノモセに来たその日に終わらせたぜ!」
「そんなに前からノモセにいるの?」
「ああ。もう四、五日はいるな。大湿原のサファリゲームが楽しすぎるし、おれ、マキシさんに弟子入りしたからさ!」
「弟子、入り?」
「そう! だっておれも、自分だけのテーマソング欲しいからさ!」
「そ、そう」
「そうだ!」

 ジュン君は器用にもパチンと指を鳴らした。

「ヒカリも入れて、三人で大湿原に行こうぜ!」
「大湿原に?」
「ああ! そこで、誰が一番多くポケモンを捕まえられるか競争だー!」
「えっ、あ、きゃ」

 ジュン君に引かれて、右手だけが体を置き去りにして先へ先へと進んでいく。必死に足を動かしたところでどうもこのままついて行けそうにないので、もう少しゆっくり歩いて欲しいと伝えれば、せっかちな彼は「悪い」といつもの顔で笑って、ほんの少しだけ歩く速度を緩めてくれた。





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