97.夢を乗せて水平線を往く
今日からまた、旅を続けなくちゃ。タウンマップを広げて、次の街への道のりを再確認する。
「西へ行けばノモセシティ、東へ行けばナギサシティ……」
左か、右か。正直、惹かれたのはナギサシティへと続く222番道路のほうだ。気持ちが揺らぐ。ナギサシティのみんなに会いたい。デンジ君に、逢いたい。
222番道路の入り口に向けて、ふらりと一歩を踏み出した。そのとき、知らない男の人が私の前に立ちふさがった。
「きみきみ! ナギサシティに行くつもりか?」
「あ……」
「ナギサシティはダメだ! 数日前に大停電が起こったらしくて、復旧作業が終わっていないんだよ!」
「て、停電? そんなに酷い停電なんですか?」
「ああ。入門ゲートも開かないから街に入れないしな。復旧の見通しは立っていないらしい。空を飛べるポケモンでもいればいいのだが」
「……」
わざわざ教えてくださってありがとうございました、と男の人に頭を下げて、踵を返した。
ナギサシティが大停電に陥るなんて、ナギサの住民ならさほど珍しいとも思わないこと。ジムリーダーのデンジ君が大の改造好きで、ソーラーパネルで賄いきれないほどの電力を使った結果、街をよく停電させてしまうからだ。
今回の停電も、きっとデンジ君の仕業。……タイミングが悪かった、わね。
(デンジ君のばかー。シャワーズ、サンダースに会いたかったよ)
「……そうね」
私も逢いたかった。停電を起こした張本人に。でも、これは旅を終えるまで我慢しろというお告げかもしれない。
確かに、今ナギサシティへ帰ってしまったら、また旅立つときが辛いもの。逢うのは、全てに納得して、旅を終えてからのほうがいい。
「気を取り直して、出発しましょう。213番道路を通ってノモセシティへ」
213番道路は、潮の香りが漂う海の道。沖合の岩が防波堤となって、浜辺の静けさを保っている。
ブーツの底で砂の感触を踏みしめながら、浜辺を海沿いに西へと進んだ。私が付けた足跡を、シャワーズが後ろからなぞるようについてくる。
昨日、怪我をしたラプラスがいた大岩を通り過ぎたところで、私は足を止めた。あのラプラスが、まだ海にいたからだ。
「ラプラス」
(あ、来た来た!)
ラプラスは私を見付けると、音もなく静かに泳いできた。昨日は傷ついていた鰭を、いつも通り上手に動かせているみたい。
「鰭はもう大丈夫? 痛くない?」
(うん!)
「よかった」
(ねぇ、貴方の名前は?)
「私? レインよ」
(レイン)
私の名を繰り返し呟くと、ラプラスはにこりと笑った。
(レイン! あたしのご主人になって!)
「え? それって……私の仲間になってくれる、ってこと?」
(そう! なりたい!)
「いいの? 一緒に旅してくれるの?」
(うん! あたし、もっとたくさんの世界を見てみたくて、チャンピオンロードからここまで来たの! 一緒に旅するなら優しい人間がいい! だから、貴方がいい!)
「ラプラス……! ありがとう!」
ラプラスは頭を垂れてきたから、私は首にぎゅっと腕を回した。シャワーズも嬉しそうに笑っている。新しい仲間、新しいお友達。昨日は人間を恨み、警戒していたこの子も、少なくとも私には心を許してくれた。……そう思っても、いいよね? 理解し合える人間とポケモンは、きっと、まだまだたくさんいるはず。
最後のモンスターボールに手を伸ばし、ラプラスに向けた。光と共にラプラスがボールに収まり、バッグの中の五つ全てのボールが埋まった。私たちのパーティーの、完成ね。
「さあ。新しい仲間も増えたことだし、張り切っていきましょう」
目指すは水の街、ノモセシティへ。