87.年中無休空腹少女


 ポケモンセンターの調理室に、出来立ての料理の香りが充満している。カレーライス、ポテトサラダ、ハンバーグ、デザートにはフルーツポンチ。それらを、スモモちゃんは見ていて気持ちよくなるくらいの食べっぷりで、口の中へとかき込んでいく。カレーライスなんか、おかわりを何回したのか数えるのを途中で諦めたくらい。その小さい体の中は、本当はブラックホールなのではないかと思うほどだった。

「ありがとうございます、レインさん! むぐむぐ……こんなにたくさんご飯を食べたの、むぐむぐ、久しぶりです!」
「ポケモンセンターの調理室を使わせてもらえてよかったわ。材料費だけでたくさんお料理を作れるもの」
「ポケモンセンターのご飯、安いのに……それすらお金がなくて食べられないなんて……」

 すっかりスモモちゃんに同情してしまったヒカリちゃんは「あたしのも食べて」とハンバーグをスモモちゃんに差し出した。
 スモモちゃんはジムリーダーであるにも関わらず、年がら年中金欠で、日々一日一食生活をしているらしい。金欠理由は、父親がゲームコーナーで浪費しているからだという。その事実をヒカリちゃんがハンサムさんへと告げに言ったら、彼はまた大激怒してスモモちゃんのお父さんをお説教していた。

「たくさん食べてね。スモモちゃんはたくさん運動してるし、育ち盛りなんだから」
「それに、明日は全力であたしたちの相手をして欲しいもの!」
「ありがとうございます……むぐむぐ……レインさん、ヒカリさん」

 スモモちゃんはにっこりと笑った。可愛いな、と思う。
 他の地方には、むし使いの男の子や、エスパー使いの双子ちゃんというジムリーダーもいるらしいけど、確かスモモちゃんは、シンオウ地方じゃ最年少でジムリーダーになった女の子。天才と謳われる傍ら、血の滲むような努力もあったと思う。そんな彼女だから、本当に応援したくなる。
 美味しそうにカレーライスを頬張るスモモちゃんを眺めていると、彼女は思い出したように小さく声を上げた。

「あ! そういえばこの前、ジムリーダーの会合があったんですけど」
「会合?」
「ジムリーダーが定期的に集まって、挑戦者数の報告やジムトレーナーの勝率、ジム運営の話し合いなんかをすること……よね?」
「はい! それで、久しぶりにデンジさんに会ったんですけど」

 キラリ、とヒカリちゃんが目を輝かせた気がした。

「デンジさん、レインさんのことを心配していましたよ」
「本当?」
「はい。野宿してないかとか、変な男に絡まれてないかとか、怪我や病気をしてないかとか」
「デンジ君……」
「……」
「今夜にでも、電話してみるわ。私は大丈夫よって伝えなきゃ」
「はい! そうですね!」
「……」

 私たちの会話を聞いたヒカリちゃんは「デンジさんも大変かも」と、小さく呟いた。





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