81.熱に浮かされる病


――ズイタウン――

 時間がゆっくりと流れる田舎町――ズイタウン。シンオウ地方という年中を通して気温が低い地方の中でも、比較的気温が暖かい町だ。
 ズイタウンは、昔は何もない場所だったけど、何もないからこそ人間やポケモンが集まって、一つの町ができたらしい。大きな建物は一つもなくて、小さな家が所々に並び、目立つ施設はポケモンセンターとフレンドリーショップくらいだけど、それらもヨスガシティみたいな大都市に比べて規模が小さい。
 他には、広い大地を利用したポケモンの育て屋さんや、ミルタンクを育ててミルクを採る牧場があるくらい。そういえば、新聞局もあったわね……デンジ君やオーバ君もよく特集を組まれてたような気がするわ。
 ズイタウンは人が住むには未発達な土地で、デコボコの地面や不規則に生える木など自然の割合が極めて強い。だからこそ、みんなのんびり気ままに過ごせるのね。
 育て屋さんの柵の向こう側にいるポケモンたちを眺めながら、そんなことをぼんやりと考えていた。

(マスター。やっと、ジョーイさんから旅していいって言われたんだから、早く行こうよ)
「……ええ」
(遺跡に行くんでしょ? シャワーズ、早く見てみたい)
「……そうね」

 あのプラスルとマイナン、仲がいいわね。シンオウじゃ珍しいわ。デンジ君が見たら目の色を変えそう。彼は、でんきタイプと可愛いポケモンに目がないから。

(ゲンさんに会えなかったこと、そんなに残念だったの?)

 シャワーズの言葉に、ぐっと唇を噛んだ。……あまりにも的を射た発言だったからだ。
 ロストタワーで倒れた私を助けてくれたのが、偶然通りかかったゲンさんだったらしい。……という話をシャワーズから聞いて、そのあとすぐにベッドから飛び起きたけど、すでにゲンさんの姿はなかった。一日は傍にいてくれてたらしいけど……どうしてもっと早く起きなかったの、私のバカ。
 彼にはいろいろ聞きたいことがあった。彼の波導と私の『力』のこと、十年前の記憶がないということ、その名前が本名じゃないかもしれないこと。……それに。

「……シャワーズ」
(なぁに?)
「私、抱き上げられて、た、のよ、ね」
(うん。お姫様だっこ)

 想像するだけで熱が頬に集中してしまう。どうしてこんなにドキドキするの……? どうしてこんなに恥ずかしいの……? ナギサにいた頃、足を挫いたときにデンジ君にもしてもらったことがあったじゃない。あのときは何ともなかったのに、それなのに、どうして……

「っ!」
(マスター、お顔赤い。まだ具合が悪いの?)
「え!? う、ううん! 大丈夫よ! なんでもないの」
(?)
「じ、じゃあそろそろ行きましょうか。ズイの遺跡に」

 嬉しそうにスキップするシャワーズの後ろをついて歩きながら、目覚める前に見た夢のことを思い出した。温かくて、優しい気持ち。あのとき見た懐かしい夢は、ゲンさんのせいなのかしら。





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