1-1.太陽に照らされた街で


 マスターが淹れるコーヒーが好き。立ち上るアロマに鼻先を近付けると、ふわふわした温かい気持ちになり、ホッと一息つくことが出来る。
 うーん、と伸びをしながら窓の外に目をやる。うん。この休憩室から海が見えるのも、安らげるポイントかな。
 ナギサシティの郊外にあるこのカフェ、と言うよりも喫茶店と言ったほうが雰囲気に合っているかもしれない。古い建物を改装したこのお店は、年季の入った老舗のようにも見えるけれど、オープンして十年も経っていない。
 クラシカルな洋風の内装と、ムードをかきたてるBGMはジャズ。決して派手なお店ではないけれど、常連が多く、隠れ家的なお店としてそこそこ繁盛している。
 そんなこの喫茶店が、わたしの職場だ。ホールスタッフとして働き出して数ヵ月が経とうとしているけど、ようやく仕事にも慣れてきたと思っている。
 足元で欠伸をしながら伸びをしているイーブイは、一緒に働く仲間であり、わたしのパートナーだ。マスターのヘルガーと共に、喫茶店の看板ポケモンとして毎日一緒に働いている。

「そろそろ休憩も終わりね。マスターが作ってくれた賄い、今日も美味しかったわね。さぁ。午後からも頑張りましょう」

 太陽が照らす街。ナギサシティ。眩しすぎる街の片隅で、わたしは今日も一日を消費する。



2019.7.14


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