愛のかたまり


『Merry Christmas』のガーランドを窓に取り付け、ふうと一息。改めて部屋の中を見渡す。
卓上のクリスマスツリーには赤とゴールドのオーナメントを飾った。雰囲気を出すためにフェイクのキャンドルライトも灯した。コンフェッティバルーンも浮かべてみたりした。
うん。急いで準備したわりには、なかなかクリスマスっぽくなったんじゃないかな。

ここ数年間、わたしはクリスマスが苦手だった。直前になって大好きな人と別れたという、わたしにとって苦い想い出があるからだ。といっても、別れるきっかけを作ったのはわたしだから、辛いなんて口に出来る立場ではない。
でも、大好きな人を失ってしまったということ以上に、クリスマスが来るたびに彼を傷つけてしまった事実を思い出して、そっちのほうがよっぽど辛かったし、苦しかった。

そんなわたし達が、再び恋人同士になって迎える初めてのクリスマスが、今日だ。ポケモンミュージカルのカロス地方での公演と、オーバくんのカロス地方への出張が、偶然にも重なったのだ。
お互い重なった日程のうち、フリーとなる時間は今夜から明日にかけてだけ。今夜はわたしが泊まっているミアレシティのホテルで、二人きりでパーティーをする予定だ。

「飾り付け、よし。お料理はデリバリーを頼んだし、プレゼントも……よし」

わたしからオーバくんへのプレゼントは、ミアレシティのブティックで選んだ腕時計にした。わたし達が別れる前にオーバくんからもらった天使の翼のチョーカーが、わたしにとって何度も心の支えになったし、彼を思い出したから、わたしも彼に何か身に付けられるものをプレゼントしたかったのだ。

「喜んでくれるといいなぁ……っと、わたしにもおかしなところはないよね?」

雪のような真っ白なワンピース。髪はまとめて大人可愛くしたつもり。メイクはいつもより少しラメを多くのせて、特別感を出した。
バスルームの鏡の前に立って、最終チェック。うん、大丈夫。可愛い、可愛い。
年に数回しか直接逢うことは出来ないから、今日は特別な日にしたい。だから、今日は一番可愛いわたしでいたい。

その時、部屋のインターホンが音を立てた。時間ピッタリだ。はやる気持ちを抑えきれずに、誰が来たかも確認せずにドアを開ける。

「メリークリスマス!」
「きゃ」

思わず小さい悲鳴を上げた。目の前に、大きなぬいぐるみがあったからだ。そのぬいぐるみの影からひょっこりと顔を出したのは、ずっと逢いたくて止まなかった人。オーバくんは、いつも通話で見せてくれる太陽ような笑顔で現れた。

「エイル!」
「オーバくん!」
「ははっ!驚いたか?」
「もちろん!驚いたよ!」
「じゃ、サプライズ大成功だな!おっ!今日はエイルもパーティー仕様じゃん!いつもに増して可愛いなー!」
「……えへへ」

嬉しくて、ぬいぐるみごと一緒に抱きついた。弛んでしまう口元を隠しきれない。抱き止めてくれるこの腕、この香り……久しぶり。
ふと、気付いた。オーバくんのトレードマークは燃える炎のような真っ赤な髪だけど、今日は頭だけじゃなくて全身が真っ赤だ。
というか、これは。

「もしかして、サンタ?」
「もしかしなくても、どう見てもサンタだろ!オーバサンタが愛しい彼女にプレゼントを届けにきたぞー!」

オーバくんは肩に担いでいた白い大きな袋をどさりと下ろした。その中からプレゼントの出てくること。小さい箱や大きな箱、リボンでラッピングされたものや、巾着のように口が縛られたものなど、様々だ。

「すごーい!こんなにたくさんもらっていいの?」
「もちろん!あ、期待してもらってたら悪いだけど、一つ一つはそんなに高いものじゃないからな!今日が楽しみ過ぎてさ、今日までにエイルが喜びそうなものを見かけるたびに手を出してたら、こんな量になったというか」
「オーバくん……」

もう、どうしてこんなに、嬉しいことばかりしてくれるんだろう。言ってくれるんだろう。無邪気にこういうことをしてくれるところが、本当に大好き。離れていても、いつもわたしのことを考えてくれているんだね。
本当なら、クリスマスだからといって特別なお祝いをしなくていいくらい、毎日がきみへの愛で溢れている。だけど、毎日逢うことは今のわたし達にとって難しいから、逢える日一日一日を特別にしたい。
首筋に腕を伸ばすと、当たり前のようにキスをして抱き締めてくれた。ああ、本当に、逢えなかった分の幸せが一気に訪れてきて、溺れてしまいそうだ。

「お!」
「どうしたの?」
「雪が降ってきたぜ!」
「本当だ!ホワイトクリスマスだね!」

二人で窓際に駆け寄り、空を見上げた。凛とした冬空を真っ白な雪が舞い落ちている。綺麗。まるで、空からの贈り物みたい。

「せっかくだし、少し外を歩くか?そのあと、エイルが飾り付けしてくれたこの部屋でパーティーしようぜ!」
「うん!ミアレシティのイルミネーション、一緒に見たいな」
「よーし!じゃあ、着替えるからちょっと待っててな」
「そのままの格好でもいいよ?」
「いやいや、さすがに芸術の街をサンタのコスプレして歩く勇気は俺にもないぞ?」
「あははっ!」

綺麗なイルミネーションの中を歩いて、美味しい料理を二人で食べて、たくさんお話をして、どの恋人達よりも甘い夜を一緒に過ごそう。辛かった想い出を上書きしてしまおう。そうすれば、これから巡り来るクリスマスは、きっと幸せな気持ちで過ごせるから。





イメージソング『愛のかたまり』
2019.12.23


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