6-5.変わらないもの
眩しい太陽の光が照らす街――ナギサシティ。故郷に帰ってくるのは一年ぶりだった。馴染みのある景色が見えてくると自然と足が早まり、見知った人物を探してしまう。
街のゲートを越えたすぐ先に、真っ先に逢いたかった人物のうちの一人がいた。レインは俺の姿をそのアイスブルーの瞳にうつすと、パッと花が咲いたような笑顔を見せた。
「オーバ君!」
「おお! レイン久しぶりだな!」
「ええ! おかえりなさい! ニュースで見たわ! 四天王になったのね! 本当におめでとう!」
「へへっ! ありがとな! やー……しかし、ナギサシティも変わったなぁ」
あたりを凝視しなくても分かるくらい、ナギサシティは変わった。簡単にいうと、全体的にハイテク化しているのだ。
具体的にいうと、まず道や立体橋や家の屋根にソーラーパネルが敷き詰められている。しるべの灯台はシートで覆われており工事中のようだ。遠くに見えるナギサジムの近くには発電所のような見覚えのない施設が建っている。
まさか、と思った。こういうときの予感は大体当たるのだ。
「これ、まさか」
「ええ……指揮を執ってるのはデンジ君なの。街全体にソーラーシステムを作って、電力をコントロール出来るようにしているんですって」
「やっぱりそうか。いや、素直にすごいけど、あいつジムリーダーの仕事はどうしてるんだ?」
「仕事はきちんとしてるわ。といっても、バトル以外のことをだけど……ジムリーダーまでたどり着く挑戦者がなかなかいないみたいで……」
「あー。それで少しやる気が落ちてるってことか」
「オーバ」
俺の真っ先に逢いたかった人物のうちのもう一人、デンジは、数ヵ月前に電話で話したときのような顔つきで、俺の前に現れた。どうやら、デンジは未だスランプから抜け出しきれていないようだ。
まあ、ここはとりあえず、俺らしく再会を喜ぼう。
「よー! 久しぶりだなデンジ君! 宣言通り、四天王になったオーバ様が帰ってきたぜ! パレードの準備は出来ているかー!?」
「ん」
「なんだこれ? 軍手?」
「見てわかるだろ? 色々工事するところが残ってて忙しいんだよ。おまえも手伝え」
「いやいや、俺さっき旅から帰ってきたばかり」
「電気の知識がないやつは力仕事な。資材を運んでくれ」
「って、話を聞けよ!」
「ふふっ」
「いや、レイン笑い事じゃないぞ?」
「ごめんなさい。でも、オーバ君が四天王になったって聞いて、デンジ君少し元気になったみたいだから……よかったなと思って」
レインいわく、一時期のデンジは今以上にひどい塞ぎ込みようだったらしい。なんだ。俺が火を点けるまでもなく自分で立ち上がれたのなら、まあいいか。
仕方ないから、デンジから受け取った軍手を装着して上着を脱ぎ、レインに預けた。
「よーし! 故郷のためにいっちょ手伝ってやってやるか! その代わり、夜は飲みに行くぞ! もちろん、マスターの店でな!」
「その前に、ポケモンバトルだろ。おまえが勝ったら全額飲み代出してやるよ」
「おっ! 聞いたからな! 四天王になったオーバ様を舐めるなよー!」
デンジが笑って、レインも笑って、俺も笑う。ああ、本当に帰ってきたんだなと実感した。一人でも欠けたら物足りない。やっぱり、俺達は三人揃ってこそなのだ。
でも、ここにエイルがいてくれたら、なんて考えてしまい、全然吹っ切れてない自分に呆れるように、少しだけ苦笑を混ぜた。
2019.10.22