5-6.きみの笑顔がある限り


 飛行機の窓から見えるシンオウ地方がどんどん小さくなっていく。太陽に愛された街、ナギサシティ。最初は眩しくて苦手だった街も、わたしの太陽と出逢えてからは大好きになった。
 窓の外が完全に雲に覆われたところで、わたしはブラインドを下ろした。イッシュまでの飛行時間は長い。音楽でも聴きながら過ごそうかとバッグを漁ったけど、ウォークマンが見当たらない。キャリーケースの中にあればいいけれど、もしかしたらどこかに置き忘れたのかもしれない。オーバくんと一緒に聴いた想い出の曲が、たくさん入っていたんだけどな。
 ふう、とため息を吐いたところで、指先が固い箱に当たった。オーバくんがくれたプレゼントだ。

「……何をくれたんだろう」

 白い箱にかけてあるライトパープルのリボンをするりと解く。箱の形から、ネックレスかなと思っていたけれど、予想は半分当たりで半分外れだった。

「チョーカーだ……」

 プレゼントの中身は黒いチョーカーだった。天使の翼のようなモチーフもついている。
 そういえば、オーバくんもシンプルな黒いチョーカーをいつもつけていたっけ。
 チョーカーの両端を持って首の後ろに腕を回し、留め具をひっかける。うん。このくらいがちょうどいい長さかな。

「どう? 似合うかな?」

 モンスターボール越しにポケモン達に聞くと、みんなうんうんと頷いてくれた。

「ずっと前に、って言ってたけど、クリスマスプレゼントのつもりで買ってくれたんだよね。ほんと、嘘が下手なんだから……」

 ポタリ。涙がモンスターボールに落ちた。別れを受け入れた日以来、流さないようにしていた涙が、次から次へと溢れ出てくる。
 オーバくんは、自分の夢はもちろん、わたしとの未来まで考えてくれていた。それを裏切ったのはわたし。わたしはわたしの夢を叶えるために、彼に酷いことをしてしまった。

「オーバくん、ごめんね……わたしのせいで辛いことを言わせて……こんなことになってごめんなさい……」

 わたしが自分から別れを切り出す勇気が出なかったから、優しい彼に残酷な言葉を言わせてしまった。それだけが、心残りでならない。
 本当に、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。

 ――何度心の中で謝罪しただろう。ようやく落ち着いてきた。こんなことを言って泣いてはダメだ。きっと、彼はこんなわたしを望んでいない。
 涙を拭いて顔を上げる。この選択を後悔したくない。だから、今から一年間死ぬ気でやってやる。必ず、夢を叶えるんだ。
 機内モードにしているスマートフォンを開いた。二人で行った海の写真のロック画面。付き合い始めた日の暗証番号。そして、二人で笑いながら自撮りした待受画面。

「しばらくはこのままでいさせてね。きみの笑顔がある限り……わたしは頑張れるから」

 辛いときはきみを思い出そう。太陽のように眩しい、きみの笑顔を。



2019.10.14


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