3-7.父と娘


 もっと余韻に浸っていたくて、先にシャワーを浴びてきてとオーバくんに促し、わたしはシーツにくるまっていた。オーバくんの匂いがする。オーバくんの体温が残っている。彼に抱き締められているようで安心する。幸せな気持ちになる。
 ああ、本当に好きだな。……大好きだな。
 でも、さすがに肌寒かったから、服を着ようと起き上がった。床に散らばった服を一枚一枚身にまとっていると、視界の片隅でスマホのランプが点滅しているのが見えた。ああ、そういえばサイレントにしたままだったなと思いながら、手を伸ばす。もうすぐ、日付が変わる時間だった。
 スマホの側面にあるボタンを押すと、画面が明るくなる。そこに映し出されたのは、留守電が入っていることを表すメッセージ。留守電を残した主の、その名前は。

「……お父さん」

 震える指先を動かし、画面をタップ。スマホを耳元に持っていくと、数ヵ月ぶりに聞くお父さんの声が流れ込んできた。紡がれた言葉は、わたしにとってプレッシャーでしかなく、心の奥を揺さぶるには十分だった。
 押し寄せてくる現実に耐えられず、スマホを放り投げたわたしは、外に飛び出した。



2019.9.23


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