2-9.太陽と見る夢


 部屋に入った途端に力が抜けて、ドアにもたれ掛かり座り込んでしまった。まだ、唇に温もりが残ってる。抱き締められた感触が残ってる。
 本当に、現実なんだ。

「信じられない……初めて彼氏が出来ちゃった」

 まるで流れるように本音が出てしまったときには、しまった、と思ったけれど、口にした言葉は取り消せないから、もうどうにでもなれ、と想いをぶつけた。あのとき勇気を出して、本当に良かった。

「好きな人がわたしのことを好きなんて……こんなに幸せなことがあっていいのかな……?」

 そうだ、もしかしたら。
 私は急いで窓を開けて、サンダルを履いてベランダに出た。
 ああ、やっぱり。わたしの部屋を見上げていたオーバくんは、視線が合うとわたしが大好きな笑顔を見せて、手を振ってくれた。憧れてやまない、眩しくて仕方がない、わたしが好きになったあの笑顔。ああ、本当に好きだなぁ。好きすぎて胸が苦しくなるくらいだ。
 負けじとわたしも手を振ったけれど、オーバくんが「中に入りな」というジェスチャーをしたので、大人しくそれに従った。わたしが部屋に入ったことを確認したオーバくんが、来た道を引き返していく姿を見えなくなるまで追いかけながら、思う。

「いつかオーバくんにはわたしの夢を話せるといいな」

 これが俺の夢だと、必ず夢を叶えるのだと、誇らしげに胸を張って話すオーバくんのようにはまだなれないけれど、いつか、わたしもきっと。



2019.8.20


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