2-5.この身を突き動かすのは


 バトルを終えた俺達は、ブーバーンとリザードンをそれぞれポケモンセンターに預けて、話題の店へランチに来ていた。バトルの勝敗はどうなったか、というと。

「はぁ。負けちゃった」
「いやー。でも接戦だったな!」
「オーバくん、ポケモンバトル強いんだね。リザードンが負けたのって初めてかも」
「まあ、日頃から鍛えてるからな! エイルとリザードンだってなかなかだったぜ!」

 フレアドライブがぶつかり合い、その場に立っていたのは俺のブーバーンだった。とはいっても、片膝をついて辛うじて立っていられる状態だった。また次にバトルをするときはどうなるかわからないな。

「リザードン、すごく悔しそうだったな。でも負けることも勉強の一つだし、いい機会だったのかも」
「そうだな。負けることで見えることもあるしな」
「オーバくんも?」
「そりゃそうだ! 俺、シンオウのジムバッジは全部集めたんだ! とはいえ、ずっと順調に勝ち進んだわけじゃない。バトルに負けたらそれ以上に鍛えて、勉強して、這い上がったもんだ」
「じゃあ……例えば、どうしたらもっとリザードンを強くしてあげられると思う?」
「んー。そうだなぁ……エイルのリザードンって、負けず嫌いで少し意地っ張りか?」
「うん! そう! さっきのバトルだけで性格までわかっちゃうんだ?」
「負けてあれだけ悔しそうにしてたし、バトル中も攻撃的だったからな! でも、そういう性格なら、俺ならガンガン攻撃させる戦法を選ぶかな! 例えば、りゅうのまいやつるぎのまいで攻撃力や素早さを上げて、火力が高いフレアドライブやぎゃくりんで一気に畳み掛ける! みずやいわタイプ対策にかみなりパンチやじしんを覚えさせるのもいいよな!」
「なるほど……! というかオーバくん、自分の手持ちにいないポケモンがどういう技を覚えるかまで知ってるんだね」

 それはそうだ。四天王に限ったことではなくジムリーダーやチャンピオンにも言えることだが、彼らはチャレンジャーを選べない。相手がどんなポケモンを使ってくるか、どんな戦術を得意とするか、どんな技を覚えているかわからない。だから、どんなポケモンを相手にしても対処できるように、知識だけは詰め込んでおく必要があるのだ。

「オーバくんはただポケモンが好きだからそんなに一生懸命なの? まっすぐに頑張れるの?」
「そりゃ、俺の原動力はポケモンが好きってことだけど、夢があるんだ!」
「夢? そう言えば、前にも言ってたね……どんな夢か、今聞いたら教えてくれる?」

 そうだな。エイルのことを知りたいと思う前に、まずは自分のことを知ってもらうことも大切かもしれない。あのときは酔っていたこともあり、勿体ぶってしまったが、今なら素直に話せる。

「俺さ、四天王になりたいんだ!」

 エイルは目を丸くして、はっきりと言い切った俺を見つめた。まあ、想定内の反応だ。初めてこの話をすると相手はたいてい「そんな途方もない夢を見てないで、現実を見ろ」とでもいうような反応をする。エイルも、そこまであからさまな表情こそしなかったが、微かに困惑しているというか、反応に困っているようだった。

「四天王……って、ポケモンリーグの四天王のこと?」
「ああ」
「そう……でも、そんな、ポケモントレーナーの中でもたった四人しか選ばれないのに、どうして」
「狭き門だってことはわかってる。でも、どうして目指すのか……って聞かれても、なりたいから! 憧れたから! ポケモンが好きだから! それしか言えないな。だから、一生懸命になれるんだ!」

 以前、夢は口にすると叶いにくいとか言った気がするが、口にすることで改めて決意を確認し確固たるものにすることができるとも思う。一種の自己暗示かもしれないが、自分はできる、夢を叶える、と、自分自身を鼓舞することに繋がる気がするのだ。
 エイルは、まるで現実味がないような惚けた目で俺を見ていたが、ふと瞼を伏せて視線を落とした。

「すごいなぁ。オーバくん。わたしは……そういう風にはなれなかったから」
「エイルも何かやりたいこととか、なりたいものがあるのか?」
「わたしは……」
「お待たせしました」

 タイミングが悪いというか、なんというか。注文していた食後のデザートが届いたようだ。エイルの前にチーズケーキとアイスティーが置かれた瞬間、エイルの目がキラキラと輝き出した。幻覚だろうか。瞳孔にハートマークすら見える気がする。

「わぁ! 美味しそう! わたし、チーズケーキが大好きなんだ! これすごいね! チーズケーキの上にかき氷みたいなイチゴがのってる! ねぇ、先に食べてていい?」
「あ、ああ。どうせ俺が頼んだのは飲み物だけだし」
「じゃあ、いっただきまーす! ……んー! おいしっ!」

 どうも話は流れてしまったようだが、エイルのとびきりの笑顔が見られたのでまあ良しとしよう。エイルはチーズケーキが好き。また一つ新たな情報をインプットできた俺の頭は、小さな幸せで満たされた。



2019.8.16


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