2-4.烈火の戦い


 色違いのポケモンと言えば、俺が見たことあるのはナギサの海に住んでいる、レインと仲が良いランターンくらいだった。そもそも、色違いのポケモンが生まれる確率は0.01%程ととても低いらしく、生涯お目にかかれないということの方が多い。
 だから今、目の前にいる色違いのポケモンを前にして、俺のテンションは最高潮だった。風船のような体は黄色で、口元のバツ印と腕は水色だ。頭に乗っている雲のような部分は、普通の個体と同じく白色。
 間違いなく、色違いのフワンテだった。

「おおおおお! 黄色い! 本当に黄色いフワンテだ! 可愛いなー!」
「でしょ? 独り暮らしを始めた頃にゲットしたの。この子、自分の体の色を褒められるのが好きなんだ。もっと言ってあげて」
「いや、ほんと可愛いな! 俺のフワライドももちろん可愛いけど、また違う可愛さがあるよな! あ」

 腰につけていたモンスターボールから、俺のフワライドが姿を表した。目を半開きにしていかにも、不機嫌です! という表情をしている。

「ごめんごめん。ヤキモチか?」

 すると、エイルのフワンテが俺のフワライドの前まで漂ってきて、ジーッと目を覗き込んだ。フワライドは困惑したようだったが、目を逸らしたら負けとでもいうように、負けじと見つめ返している。
 俺とエイルはその様子をハラハラしながら見守っており、どちらかが攻撃でも仕掛けようならすぐさま止めるつもりでいた。しかし、フワンテがフワライドと手を繋いで嬉しそうにふわふわ踊り出したところで、緊張を解いた。フワライドも、満更ではないようだ。

「おっ。懐かれた」
「ふふっ。みたいだね。よかった。あ! それから、こっちがリザードン」

 いよいよ、大本命とご対面というわけだ。同じ目線くらいに現れることを想像していた俺だったが、現れたリザードンの目は予想より遥か高い位置にあった。リザードンの身長の平均といえば確か百七十ほどで、俺の身長より少し低いくらいと思うのだが、エイルのリザードンは遥かにでかい。二メートルはありそうだった。

「かっっっっけー! 普通のリザードンより少し大きいよな!? 飛べるほのおタイプっていいよなー! ほのお使いのロマンだよなー!」
「オーバくんはほのお、ひこうタイプは手持ちにいないの?」
「ん。そもそも、ほのおとひこうタイプを兼ねたポケモンは少ないからな。リザードンか、伝説のポケモンか。あとはアローラ地方に少しいるくらいだったか」
「へえ。詳しいんだね」
「まあなー! エイルはリザードンをどこで仲間にしたんだ? 野生にはなかなかいないよな?」
「わたしはお父さんにもらったんだ」

 しまった、と思った。先ほど服を選んだときの会話から、父親に関する話題は地雷だと察したからだ。わざとではないとはいえ、こうも立て続けに踏んでしまうとは、俺も運がない。
 慌てて話題を変えようとしたが、当のエイルは気にしていないというように言葉を続けた。

「わたしが十歳になったときだったかな。両親から初めてのポケモンを一匹ずつもらったんだ。お母さんからはイーブイで、お父さんからはヒトカゲ」
「ああ、なるほど。そのヒトカゲが進化してリザードンになったんだな」
「そう。お父さんはポケモンに関する研究職に就いているんだけど、仕事でカントーに出張に行ったときに、オーキド博士からヒトカゲを譲ってもらったって言ってたかな」

 そして、エイルはリザードンの腕に自分のそれを絡め、イタズラっぽく笑った。

「ちなみに、この子はコンテストよりも本当はバトルが大好きで、すごく強いんだよ?」
「おっ! それは、ポケモンバトルをしようってことで、受け取っていいんだな?」

 エイルとポケモンバトルをしてみたい。それは、コンビニで会ったときから思っていたことだったが、まさか今日実現出来るとは思わなかった。しかも、相手はリザードン。相手にとって何も不足はない。

「行くよっ! リザードン!」
「こっちはブーバーンだ! 頼んだぜ!」

 エイルがパートナーポケモンを出してきたんだ。こちらも、俺が初めて仲間にしたポケモンで相手をすることにしよう。

「お前の火力を見せてやれ! かえんほうしゃ!」
「飛んで!」

 速い。一瞬で太陽と同じ高さまで上昇した。その鍛え抜かれた翼が、大きくはためく。

「エアスラッシュ!」
「まもる!」

 なんとか防御が間に合った。が、衝撃波を直に受けたまわりの砂浜はえぐれ、その威力を物語っていた。思わず生唾を飲み込む。これは、まともに食らったらただでは済まなかっただろうな。

「リザードン! 今度は海面に向かってエアスラッシュ!」
「!?」

 しまった。あの威力の衝撃を海面が受けたら、と思ったときにはすでに遅かった。リザードンが放ったエアスラッシュは海水を高くまで飛ばし、それは滝のようにブーバーンに降り注いだ。当然、水が最大の弱点であるブーバーンの体力は大幅に削られることとなった。
 地形を利用することも立派な戦術のひとつ。想像していた以上に、エイルは腕の立つトレーナーのようだ。

「今よ! ゴッドバード!」
「えんまくで目眩ましだ!」

 まもるを連発すると成功率が下がる。もし失敗したら確実に負けると読んだ俺は、相手の視界を奪う方法を選んだ。
 予想だにしなかった水の攻撃に怯んでいたブーバーンだったが、なんとか体勢を立て直して煙幕を撒き散らすことに成功した。目標を失ったリザードンは一旦上空に身を翻し、浜辺近くまで下降して煙幕を吹き飛ばした。

「あぶねーあぶねー。さっきのエアスラッシュでも相当な威力だったのに、ゴッドバードなんて受けたら瀕死になっちまうな。と、言うわけで! 一撃で決めさせてもらうぜ! ブーバーン! 10まんボルト!」
「え!?」

 今度はエイルのほうが、予想外の攻撃に怯む番だった。ほのおタイプのブーバーンから放たれる、電撃。まともに食らったリザードンは浜辺の上で動かなくなってしまった。

「っ、電気技を覚えていたんだ」
「ああ! ほのおタイプの弱点はみずタイプやいわタイプだからな! その対策ってわけだ!」
「さすが。確かに、ひこうタイプの状態で10まんボルトを受けていたら、もう戦えなかったかもね」

 なんだ? エイルのその、含みのある言い方は?
 真意がわかったのは、戦闘不能になったと思われたリザードンが、ゆっくり立ち上がってからだ。ひこうタイプのポケモンが俺のブーバーンの10まんボルトを食らっていたら、まず戦闘不能になっていたはず。それを持ちこたえたとなると、まさか。

「わたしの指示を待つより先にはねやすめを使ってくれていた。ナイス判断だよ! リザードン!」
「はねやすめを使うことでその間はひこうタイプじゃなくなる……つまり、電気技が効果抜群になることはないってことか!」
「そういうこと!」
「ははっ! いいね! デンジ以外の相手とこんなに熱いバトルをするのは久々だ! お互い残り体力も少ないし、これが最後にしようぜ!」
「望むところ!」

 そして俺達は同時に息を吸い込んで、最後の技を指示する。

「「フレアドライブ!」」

 二つの炎がぶつかり合い、海面さえ蒸発させてしまいそうな灼熱の炎が、砂浜を満たした。



2019.8.15


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