2-2.ボーイズトーク


「おまえそれマジかよ」

 ジムの整備をしながら話を聞いていたデンジは、案の定、幻のポケモンと遭遇したかのように目を見開いた。
 エイルをコンビニで助けたところから、先日連絡先を交換したところまでを報告したのだが、デンジは「はぁ?」とか「マジか……」とか相づちをうちながら聞いていた。

「部屋に上がって普通に寝こけたとか信じられないな……」
「いや、自分でもビックリなんだけどよ。でも、そもそも付き合ってすらないんだぞ?」
「付き合ってなくても、部屋に上げた時点で同意があったものとオレはみなす」
「どんな理屈だよ」

 そしてそれはイケメンのみ許される理屈ということに気付いて欲しい。誰も彼もがデンジのように恋愛イージーモードだと思ったら大間違いだぞ。

「でも、連絡先を聞き出すまでこぎ着けたんだし、まあ頑張れよ」
「おー」
「女にうつつを抜かして、いつあるかわからない四天王の募集を見逃さないようにな」
「そこに抜かりはないし毎日全力で準備してる! ポケモン達は鍛えてるし筆記や面接のほうの対策も」

 ピコン。スマホが鳴った。メッセージアプリの通知音だ。
 ポップアップ表示されたメッセージの先頭には『エイル』という文字。連絡先を交換してから何度かやり取りをしているが、もうすぐ来月のシフトが分かると言っていたし、今日こそ会う約束の話が出るんじゃないだろうか。
 内容を確認しようとしたところで、向かい側からため息が聞こえてきた。

「顔」
「え?」
「締まりのねぇ顔しやがって。わかりやす過ぎだろ」
「うるせーよ」
「こんにちは」

 裏口からレインがひょっこり現れると、デンジの表情がパッと明るくなった。おまえこそ、その表情に自覚はないのかと言いたい。

「レイン、来たか。聞いてくれよ。オーバが例の喫茶店のスタッフ……名前なんだっけ?」
「エイルだよ。エイル」
「そうそう。その人といい感じらしいぞ」
「いい感じ?」
「連絡先を交換して今度デートに行くんだと」
「わぁ! オーバ君、私、ふたりのことすごくお似合いだと思うわ! 頑張ってね!」
「おお! ありがとうな!」

 素直に真っ直ぐわかりやすく応援してくれるレインと、ひねくれながらも助言をくれたりして背中を押してくれるデンジ。正反対ながらも、二人が勇気づけてくれるからこそ、俺は恋愛も夢も頑張れるのかもしれないな。

「よーし! バトルだデンジ! 水対策を考えてきたからランターンを出してくれよ!」
「ほう? 自らランターンを指名とは、大層な自信だな」
「四天王になるからには弱点も克服しておかないとな!」
「デンジ君もオーバ君も頑張って!」

 そして、共に夢を追いかける仲間達がいつも一緒にいるから。俺は前向きに、ポジティブに、真っ直ぐに、頑張れるし夢を諦めずにいられるのだ。



2019.8.13


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