「銀時、そろそろ溜まったツケ払えよう」
「…えっ」
「えっじゃねぇよ、もう何食分だと思ってる」
「いや、その…」
銀時は必死に頭を動かす。
団子屋の前なんて通るべきではなかった。
どうにかして逃げねば。
「銀時」
「いや、そのだなァ」
「そのツケ、幾らじゃ」
「ざっとこんなもんよ」
団子屋の親父はツケの書かれた紙を見せびらかす。
それをひっつかみ目を通す。
「なんじゃ、こんなもんか。ほれ、受け取れ」
親父の手のひらにぽんと札を乗せる。
多少余分ではなかろうか。
「これで良いはずだな」
「あ、あ、確かに」
「良し。銀時、行くぞ」
そう言って銀時の腕を掴んだ途端に頭を叩かれる。
「痛い…」
「痛いじゃねぇよ。何でお前が此処にいる」
頭に手拭いを付けた、上品な男。
「お稲荷さんよォ」
「伊織じゃ!」
額を指で弾かれる。
糸のような髪が風に揺れた。
「誰だい」
「伊織と申す。老婆殿の名をお聞かせ願おう」
「誰ガ老婆ダッテ?」
「あたしはお登勢、こっちはキャサリン」
「うむ。仲良うしてくれ」
伊織はがっちり握手を求め、礼儀よく頭を下げた。
「随分美人な知り合いがいるんだね」
「黙ってりゃいい奴さ」
銀時とお登勢の耳打ちに、伊織が首を傾げた。
「何を話しておる」
「いや、なんでわざわざうちに来たのかってね」
「お登勢は今の銀時の母親にあたる人じゃときいた」
「誰がこんな婆を母親に持つかよ」
「誰がこんな天パを息子に持つかよ」
そんな掛け合いにも目もくれず。
銀時が深い溜め息をついた。
「お前みたいなボンボンが、こんな町に何しにきた」
すると伊織はまんべんの笑顔を見せ、仁王立ちして胸を張った。
「伊織は銀時の嫁になりにきたのだ」
「………嫁…?」
「そうじゃな。妻、家内、女房、連れ」
「こんな駄目人間にかい」
「むぅ。確かに多少駄目人間だが、それなりに良い男だと思うのだが」
「アンタ、見ル目無いヨ」
「そうかのぉ」
伊織が首を傾げる。
やめとけやめとけとお登勢とキャサリンが言う中、銀時が割って入る。
「いや、その前にこいつの性別と種族から考えろ!」
銀時の言葉と同時に頭の手拭いが取られる。
出てきたのは大きな耳。
「チョット、被ッテルヨ」
「伊織のは狐耳じゃ」
「こいつァ、天人なんだよ」
無理なんだよ!根本的に!
そう言った叫びも虚しく、狐は笑う。
「伊織は稲荷神の親戚だぞ!小遣いもある!」
「だからって良いわけあるか」
「良いではないか。不自由はさせまい」
狐耳の青年は、くるくると髪を弄びながらにっこり笑った。
「世話になるぞ銀時!」
「断る!」
title:
ひよこ屋
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