「花魁道中だァ?」
「行ってみなよ銀さん。花魁道中なんて今となっちゃ滅多にない」
長谷川に背を押され吉原に足を向けると、なにやら辺りが騒がしい。
少しして禿が見え、真っ赤な蛇の目傘も見えた。
随分立派な花魁道中だと感心していると、どんどん花魁の顔が見えてくる。
「──はぁ!?」
「む。銀時ぃ!」
立派に道中を歩んでいたのは伊織で、花魁下駄を履いて銀時の身長を追い越している。
「お前、何してるんだ」
「可憐じゃろ、可憐じゃろ!」
大変華やかな朱の着物。
頭には幾つもの簪が飾られ花魁そのものだ。
その大きな耳は不自然だが。
「いやだから…」
「伊織は美しくなってより銀時に相応しき嫁になろうと努力しておるのだ」
うっとりと話しかけてくる伊織に、銀時は頭を抱えた。
「どうしてこんなわがままに付き合った」
「だってどうしてもと聞かんから。わっちは止めた」
座敷で尾を振る伊織をたしなめながらため息を漏らす。
由緒正しい種族が花魁などの真似事。
銀時は頭を抱える。
「お前ね、自分の立場分かってるの」
「花魁じゃろ?なにかしてやろうか」
「何が出来る」
「お手玉」
「子供か!」
コツンと頭を叩くと、伊織は耳を垂らす。
「だって銀時は花魁が好きなんじゃろ」
「はあ?」
「よく吉原に来るし。だったら伊織が銀時に身請けを」
「自分が何言ってるのかわかってるのねぇ!」
とんでもないことを言ってのけた伊織を引っ剥がし、腕を組む。
「早くそれ脱げ。帰るぞ」
「えっ、嫌じゃあ。まだ着てたい」
「いいから早く」
伊織は渋々頷き、襖の奥に消えていった。
「絶対綺麗だったのに!」
相も変わらず狐は不満を垂れ流している。
ここは愚痴吐き屋じゃないぞ。
「伊織だって華やかな着物が着たいのに」
伊織は随分と質素な着物を着ている。
それ故華やかな着物に憧れているようだ。
「十四郎も見たかっただろ、伊織の花魁姿」
「いや…」
「見たかっただろ?」
強調するように言われて、土方は狼狽えながら頷いた。
「写真を撮る暇さえくれなかったぞ銀時は…」
唇を尖らす狐。
「まあ…いいんじゃねえの」
「む。どういうことじゃ」
頬を膨らませ土方に乗り掛かろうとしたとき、伊織は耳を立てた。
「銀時じゃ」
「あ?」
「銀時が迎えに来た。じゃあな十四郎、またくる」
「ああ…」
相変わらずの忙しなさに、土方はため息をついた。
視界の隅で伊織が近藤と話してるのが見えた。
「銀時ー!」
門のところまで出て行くと、見慣れた銀髪が風に揺れていた。
「おい馬鹿狐、毎度毎度こんな場所きてんじゃねえよ」
「暇だったのでな、つい」
やや前を歩く銀時の着流しを掴みながら、伊織は懐からなにやら取り出した。
「銀時、銀時見てくれ」
「あ、なんだ」
「煙管じゃ。日輪に貰った」
伊織の手には深い真紅の煙管。
くるくると回している。
「ガキはまだ吸っちゃ駄目だぞ」
「むむむ。じゃあ宝物にするかな」
「そうしとけ」
わしゃわしゃと頭を撫でると、伊織は一度頬を膨らませてまた笑顔を浮かべた。
end
←novel TOP