「あの、もう昼時なのに全く戻って来ないんですが」
「…」
「お腹減ったアル」

何故戻ってこない。
すぐ帰ってくると思ったのに。

「ていうか、どうして喧嘩したんですか」
「だってあいつが──」



「なんじゃこれは」
「あ?マヨネーズだよマヨネーズ。つかなんでお前がここにいるんだ」
「十四郎と総悟と一緒に食事したかっただけじゃ。ここは随分騒がしいな」
「ファミレスでさァ」
「ふぁみれす…」

伊織は随分珍しそうにメニューを見た。

「なにやら面妖な食事ばかりでどれがいいやら」
「きつねうどんもありますぜ」
「きつねうどん?」
「うどんの上に揚げが乗ってる」
「む。それ!それじゃ!伊織はそれが食べたい!」

嬉々として注文を終える。
伊織はぱたぱたと尾を振った。

「で、旦那となにがあったんで?」
「…何もない」
「嘘吐くな」
「嘘じゃない」

きつねうどんが目の前に置かれる。
器用に箸を使い、伊織は揚げをかじる。

「ちょっと前まで銀時銀時。嫁入りするとかしないとか」
「ああ、あれか」

ずるずると啜っていたうどんを噛み切り、伊織は水を口に含む。

「辞めたのだ」
「なにを」
「嫁入り」
「……はあ?」

素っ頓狂な声が上がる。
あの伊織が嫁入りを辞めたことに、沖田と土方は顔を見合わせた。

「マジでか」
「マジだ。もう辞めた。あんな奴知らん」
「だってあんた」
「もーこの話は終わりじゃ、終わり!伊織は出るぞ。ここは払っておく」
「おい!」

伊織はくるりと踵を返し、外に出てしまう。
髪を靡かせ街を歩く見慣れぬ銀狐は注目の的。
本人は気にもしていないらしく、胸を張って歩く。

「街には宿泊施設があるのだったな」

とりあえずそれを目指していると、後ろから声をかけられた。

「ちょっと!」
「? なんだろうか」
「あんたと似た奴を探してる奴から写真を貰ったんだけど…やっぱりそっくりだ」
「写真?」
「ほら」

ひらりと見せられた写真。
そこには確かに伊織が写っていた。


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