「神楽、銀時はどこじゃ」
普段通り枕を片手に銀時の寝床に潜るつもりがいない。
夜も更けるというのに。
「銀ちゃんならいないアル」
「夜だぞ」
「まあいつものことアル」
「そうなのか…」
耳をがっくりと垂らす。
人と寝れば温かいのに。
「どこに行ったんだ」
「吉原アル」
「吉原?」
神楽がふわぁと欠伸をした。
「して。聞きたいことがある」
「いや、まずは俺から良いですかィ」
「許可する」
「あんたが噂の狐ですかィ」
土方の隣の男、沖田が伊織を怪訝に見やる。
伊織は咳払いをした。
「金狐の伊織と申す。お前は」
「………沖田、総悟」
「うム。総悟、宜しく」
形式ばかりの挨拶を終えて、伊織が腕を組んだ。
「で、だ。十四郎、総悟。吉原を知ってるか」
「吉原?」
「吉原がなにかしたんで?」
「昨日から銀時が吉原とか言うところに行ってしまったらしく帰って来ん。そこで、吉原に連れて行って欲しい」
「なんでそうなる」
「だって帰って来んのは寂しいし…」
とんでもない申し出に、二人は顔を見合わせた。
「旦那が帰って来ないたァ、そんなに良い女がいたんですかね」
「総悟、!」
「なんだ、聞き捨てならんな。吉原には雌がいるのか」
「確かに雌、ですが……伊織、だったか。あんた、吉原がどんなとこか知ってんですか」
「い、いや」
土方が顔を歪めている。
なにがどうした。
「吉原は──」
吉原に太陽が昇って数ヶ月。
相変わらず騒がしい町に、銀時は苦笑した。
「銀さん、悪いね。屋根の修理」
「いや、仕事だしな」
吉原と言う場所の都合上、新八や神楽は置いてきた。
一仕事終えて日輪に出された茶を啜る。
さあもう一仕事と腰を上げると、外が騒がしい。
「なんだ」
「どうしたのかしら」
顔を出すと黒い装束が見えた。
「あれァ…」
「! 銀時!」
真選組の大群を引き連れ、伊織の登場。
どうにも静かにできない男だ。
「おま、どうして」
「どうしたもこうしたも…お前、伊織がいながら吉原なんて…!」
胸倉を掴まれ、銀時は目を丸くした。
「いや、これは仕事」
「なんだ、伊織のなにがいかんのだ馬鹿!」
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