「雄の銀狐とはまた、珍しいですね」
「山崎知ってるのか」
「雄は金狐、雌は銀狐って奴です」
「じゃあどうして」
「何かで聞きましたが。遺伝子の突然変異だそうですよ」
監察方の山崎が襖を覗く。
奥の間には近藤。
「へえ。雄の銀狐たァ珍しい」
「伊織と申す」
近藤も知っていたらしく、興味を示した。
「初めて見た金狐がまさかこんな貴重な」
「伊織は銀時以外の雄に興味はないが。勲は随分毛の薄いゴリラだな」
「伊織さん、俺、人間」
伊織はじろじろと近藤を見ている。
それを止めようと襖を開けた。
山崎に万事屋を探せと指示を出して。
「おい、狐」
「なんだ不躾な」
伊織が眉を寄せた。
「十四郎は雰囲気は銀時に似とるのに目が恐い」
「大きなお世話だ」
「伊織さんは、随分万事屋が好きなんですね」
近藤の言葉に伊織が顔を明るくした。
「だって良い男だとは思わんか。伊織は銀時の嫁入りにきたのじゃ」
「嫁入り?」
「嫁入りだ」
本人は本気らしく、うっとりと話している。
「…随分補正かけてるな」
「何か言ったか」
「何も」
口すらも挟みにくい。
その時山崎が部屋に入ってくる。
「副長、万事屋の旦那が見つかりました。此方に向かっています」
数分後。
屯所前に万事屋一行。
伊織は真っ直ぐ銀時に抱き付いた。
「伊織、駄目アル。急にいなくなったら」
「そうですよ。驚きました」
「そのまま故郷に帰してやってくれよ」
「金狐の国はそう簡単に行けないんだとよ」
土方が煙草をくわえる。
伊織が銀時に抱き付いたまま、土方の目の前に火を差し出した。
「狐火じゃ。素手では触るなよ」
「…どうも」
「便利だなあオイ」
「なんじゃ、使いたかったらいつでも言えよ」
「近ぇよ」
銀時の手が伊織の顔を押さえる。
相変わらずの溺愛ぶりに目が向けられない。
「帰るぞ」
「夕飯どうしますか」
「伊織の奢りじゃ。どこにする?」
「マジでか。私肉食べたいアル!」
「ええ、伊織はあまり肉は…」
「俺も肉が食いてえなあ」
「銀時が食べたいなら行こう、今すぐ行こう」
尾を揺らし、上機嫌に歩いてゆく。
土方が屯所に戻ろうとすると、名前を呼ばれる。
「またな、十四郎」
「さっさと行け」
狐の姿が見えなくなった。
title:
ひよこ屋
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