稽古を逃げ出したら小さな塊を見つけた。
それを拾い上げ顔を合わせる。
「怪我、してるのか?」
「…………みゃあ」
小さな答えが返ってきた。
「藤」
あの時拾った猫を呼ぶ。
誰にも内緒で育てている小さな命。
小十郎にも秘密だった。
「藤、どこだ。藤?」
しかしどこにもいなかった。
逃げ出してしまったのか。
「………………藤、」
……相も変わらず深い森だこと。
空を見ればまだ日は高い。
とりあえず歩くことにした。
「政宗じゃなくてもいいんだけど」
幸村とか。
とりあえず誰かに会いたい。
さっき小太を呼んだけど来なかった。
「ふんふんふーん」
鼻歌を歌いながら進む。
明るいから大丈夫大丈夫。
ガサッ
「!」
今なんか音が……
ガササッ
「え……」
近付いてきてる。
丸腰だけど待ち構える。
「…、」
息を飲めば、
「───藤、?」
隻眼の少年。
「──へ?」
「すごい!!」
誰かと間違えてるみたいだ。
藤って誰だろう。
「えっと、俺、藤じゃなくて、」
「こっちこい!」
少年に引っ張られ、森をでる。
こいつ、誰かに似てる。
「お前、藤だろう」
「ち、ちがうよ!」
「隠さなくてもいい。俺は大丈夫だ」
隠してない!
少年は聞く耳持たずだった。
「お前、名前は?」
「知らないのか?」
「……」
知ってるわけない。
初対面だから。
「まあ無理もないか。…梵天丸だ」
「ぼんてんまる…」
「藤、お前が人の形になったのは何か理由があるんだろ?」
人の形ってなんですか。
推測としては。
俺は人間だと思われていない。
「梵天丸、俺には朔那って名前が」
「藤がいなくなったから俺、すごく探したんだ」
きいてねぇ。
「だから」
「頼むから、俺の前から消えるな」
…。
梵天丸はなにやらすごく辛そうです。
涙を流さないように。
「梵天丸、」
「お前だけなんだ、藤」
むむむ。
俺は藤じゃないけど大人だから藤になりきろう。
うん。
中身17歳だからね。
梵天丸がそれで喜ぶなら。
「───梵天丸様!」
しんみりしていると、頭の上に大人の顔がありました。
その人は、
「小十郎様!?」
「…誰だてめぇは、」
小十郎様だけどなんか違いました!
びっくりしていると梵天丸が俺を庇った。
「怒るな小十郎、こいつは道に迷った俺を助けてくれただけだ」
「そう、でしたか」
小十郎様が梵天丸に頭を下げた。
梵天丸って、もしや。
小さい政宗ですか?
そういえば前に成実にきいたような…
「ごめんな、藤。お前を飼っていたのは秘密だったんだ」
梵天丸が小さく耳打ちした。
それに頷く。
「小十郎にくらい、猫を飼ってること言っておけばよかったな」
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