…その日、夢を見た。
隻眼が俺を呼ぶ。
政宗、だろうか。
政宗、小十郎様の人参残してごめんなさい。
次からは残さないから、早く奥州に返して。
「政宗」
ごめんなさい。
小さな猫を引き上げた。
今にも沈みそうな木の上にいて、救ってやれば生きていて。
目を覚ましたらかなり警戒された。
名前を問えば小さく返り、しかし距離は置かれたまま。
分からぬ陸地を海に探し、その目に俺は映らなかった。
「くっだらねー…」
猫は、朔那は子供。
小さな身体は疲れ果てて眠っている。
床に縮まる朔那を見て、温かく寝かしてやるかと抱き上げた。
子供は軽い。
揺れに身じろぎ、うっすらと目が開く。
視線が合うと小さな細い腕が首に絡んだ。
ぎゅう、と縋るように抱きつき、猫が嬉しそうに呟いた。
「政宗」
「……俺はそろそろ」
そう言ったのは元親。
なんだこいつ、意外と静かだな。
出ていかんとする元親はどこか切ない。
…。
「朔那、次は気をつけろ」
消えていく元親。
───お礼、言ってない。
「チカ!」
政宗の腕の中から身を乗り出し、名前を呼ぶ。
振り向く元親。
「ありがとう」
「…どういたしまして」
銀色は風に揺れた。
fin.1020
* * *
アニキも人気でしたので!
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