目の前に広がるは赤色。
燃えるような紅。
「ゆき」
「朔那!探したでござるうううう!!」
佐助の背から胸へくるりと移動した途端、引っ剥がされて抱き締められた。
く、苦しい。
「にぅ…、さ、すけ…!」
「旦那!朔那が死にかけてる!」
「おおすまん!!」
ぱっと離され落ちそうになると、佐助が抱いてくれた。
「さ、佐助ぇ…」
「はいはい。大丈夫だからね」
ぽんぽんと背を叩かれ、佐助の首に腕を回しえぐえぐと泣いた。
どうやらこの身体ある程度“子供”に従順らしく、涙脆いのだ。
「うう…」
「すまぬ、朔那。泣くな」
「旦那嫌われちゃったかもねー」
「!朔那、この度は…」
胡座の格好で膝に手をつき、なんか長々と謝りだした幸村。
いや別にいいけど…涙が止まらないだけで。
……お前が泣きそうじゃないか。
「朔那…」
「大丈夫だよ、ゆき。泣かないで」
「……某、泣いてなどおらぬ」
佐助から離れて幸村の顔をみると、歪んではいたが泣いていない。
そこに佐助が手を鳴らす。
「はいはい、旦那。とりあえずお茶にしますか」
「そ、そうだな!朔那のため旨い団子を用意したのであった」
「じゃあ部屋に行っていてくださーい。…とその前に」
「にゅ?」
佐助が幸村に耳打ちする。
内緒ごと?
そんなん、しないで。
佐助のポンチョを引っ張ると、二人がにっこり笑う。
なに?
「おはよう、朔那」
声が重なる。
ああ、約束だ。
──次に目が覚めたら、旦那と一緒におはようを言ってあげる。
「おはよ!ゆきむら、さすけ!」
「じゃ、お茶にしますか」
シュタッと消えた佐助に気を取られると、身体が浮かんだ。
幸村に抱えられたらしい。
「部屋に行くでござる」
「ん」
お部屋につくとおだんごをもらった。
丸くて甘いだんご。
「おいしいね、ゆき」
「うむ!朔那のため某が選んだものばかりだ」
「ん!ありがと」
二人で頬張る。
佐助は食べないんだって。
「なんでー?」
「甘い匂いって結構分かるんだよー」
「忍者だから?」
「そうそう」
「ならお仕事ないときたべよう!」
そう言うとぽん、と頭を撫でられた。
「それ、旦那に言ってくれるかなあ朔那ちゃん」
「にゅ?」
「……」
幸村目反らしながらだんご食べてる…。
夜になって休めと言われた。
さっきまで幸村と佐助がいたのに、いない。
布団にひとり。
…これは部屋が広くて落ち着かないんじゃない。
ホームシックだ。
政宗の時はみょーに主従に煩い小十郎様のおかげで、ひとりが寂しいんだと思った。
でも、甲斐に帰ってずっと幸村といたけど何故だか寂しくて。
さっき気付いた。
……家が恋しい。
「母さん……」
そんなに大事に思ってなかったかもしれない。
いつも近くにいて、近くにいるのが当たり前で。
──朔那。
柔らかい声で名前を呼んでくれて。
「かあさん……」
布団を握る手が白くなる。
父さんはちょっと親父臭くて、ちょっと下品だけど
でも、
恋しい。
「とうさ……」
「朔那」
びくりとした。
視線を向けると、
「………さすけ」
「なあに、親が恋しいの」
迷彩忍者。
近くまできて枕元にしゃがむ。
お前寝ないのか。
「べ、べつに」
「うそつき」
ぷに、と唇をつつかれる。
なんだよ!
「泣いてたくせに」
「泣いてない!おれは、男だからな!」
「はいはい」
はぁーとため息をつかれる。
だから、なんだよ。
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