「へっくしょい!」

雪も見飽きた朔那が大きな嚔をした。
真隣で笑うしかなかった。

「なあ、小太。今って何月?」

そう聞かれ、紙を出して答えた。
これは朔那が用意させたもので、彼との会話の手段のひとつだ。

睦月、と書く。

「睦月…1月か」
「?」
「何日?」


さらさらと答える。
すると朔那はくるりと愛くるしい笑顔を向ける。

「あと3日で俺誕生日!」
「?」
「誕生日。知らない?」

首を傾げた。
誕生日とはなんだろう。

「自分の生まれた日ってあるだろ?毎年その日を祝うんだよ。お菓子食べて、プレゼントもらって」

そんな習慣、知らない。
毎年正月に年が増えるものだから。
最も、年齢なんて忘れてしまった。


「俺はね、冬生まれなんだよ!雪が降ってた日で雪の子なんだよー」
「…」

雪の子朔那は膝に乗る。
とても温かい。




「…誕生日?」

奥州の独眼竜は首を傾げた。
知らないのは当然だった。

「小十郎」
「私も存じませんが」

朔那が説明したことを伝えた。
お菓子と、…ぷれぜんと。
聞き慣れない言葉だが、独眼竜には通じるだろう。

「ぷれぜんと?」
「ああ。present…贈り物だな」

やっぱり通じた。

「南蛮語が達者な猫のことだ、誕生日も南蛮の風習を真似ているのかもな」
「朔那はどこからそのような…」
「そんなことより折角だから誕生日を祝おうぜ!」
『こくこく!』
「はあ。…例えばどのように?」

今度は右目が首を傾げる番。
独眼竜はにやりと笑う。


「馳走と菓子とpresentを用意すればいいわけだ。容易いぜ」
『こくこく』
「…あと何日でしたか」

3日だ。

「All right!3日ありゃあ十分だぜ。な?」
「仕様のない……」

右目は眉間に皺を寄せたが、拒否はしていない。

「朔那に見つかるなよ」
「心得ております」

独眼竜は楽しそうに言った。

「よし、partyといこうじゃねぇか!」





朔那の手を引く。
小さな手は冷たかった。

「小太、どこいくの」

雪でうさぎを作っていた朔那を呼んできたのだ。
独眼竜は広間を使い、準備していたらしい。
猫は雪が降れば部屋からでないし、出たとしても誰かに抱えられて自由には行き来しない。

気付かれはしなかった。


「小太郎?」


襖の前に猫を立たせる。

「誰か中にいるのか?」
『こくん』
「……」

小さな手が襖を開いた。
中には。

「なにこれ!」

豪華な食事。
猫は目をキラキラさせている。
後ろに付いていくと、どうやら独眼竜が招いているようだ。

「どうしたの、これ」
「今日はお前の誕生日、らしいな」
「え、なんで知ってるの」
「伝説の忍が言っていた」
「え!」

朔那が感極まる。
礼を言おうと口を開いたときだった。


「ありが……」
「俺を呼ばねぇとはな独眼竜!風の知らせを聞いたぜ!」
「我もいるぞ」
「お前ら…」

すぱーんと襖が開き現れたのは瀬戸内。
鬼若子と謀神だ。

朔那が背中越しに確認した。


「なんだ…びっくりした。チカと就様か」
「風魔の後ろに隠れてねぇで来いよ猫!」
「朔那だったら!」
「長宗我部など放っておけ。来い朔那」
「就様ぁ…」


首に朔那の腕が回った。
これは…まだ来客がいそうだ。


「…」
「ん?小太、どうした?」

朔那を背負ったまま天井を見る。
猫を祝う来客ふたり。


「旦那、旦那ったら!もう気付かれてるよ!」
「なぬ!某、佐助に言われた通りにしたでござる!」
「気が隠れてないんだってば!」


しゅたっと猿が降りてくる。
あとから若虎。




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