書類を白蘭さんの部屋にまでわざわざ出しに行かなければ。チェルベッロに持って行かせれば良いと言うのに。僕が持って行かなければ仕事をしない、だなんて駄々をこねるものだから仕方なく行くのだ。

¨今から部屋行きますんで¨

短いメールを送信して、自分の部屋を出る。早くこの書類を届けて自室に戻りたい。しかし気が重くて足も重くだるい。暑苦しい制服を脱いでしまいたい。
冷たい床に靴底の当たる音が響いていく。僕しかいないこの廊下でも僕はずっと監視下にある。壁に埋め込まれた赤外線センサーが人の体温や呼吸を探知している。映像としての監視も、監視カメラによって記録されている。

僕が居るのはミルフィオーレファミリーのアジト、メローネ基地である。部屋の形が立方体をしていて、一部屋ごとに自由に動かすことが出来る。でもこの事を知っているのは

「失礼します、書類持って来ました白蘭さん。」
「おや、早かったね正チャン。」
僕の上司、白蘭さんとチェルベッロだけだ。でも、もうすぐこの機能もみんなに知れ渡る。そう、もうすぐ十年前の世界の綱吉君達がくるのだ。カメラもセンサーも全て彼らが戦闘で壊してくれるだろう。


「どうしたの、正チャン?」
でもこの人にはバレちゃいけない。
「いえ、何でもありませんよ、白蘭さん。」
最終的なターゲットは、この白蘭さんなのだから。

「じゃあ僕は戻ります。失礼しま」「ねぇ正チャン」

呼び止められて思わず跳ねる。驚き過ぎだろうか。僕は背中で冷や汗をかきつつ、ゆっくりと向き直る。いつも通りの白蘭さんはいつもの笑顔で僕に近寄ってきて、正面から僕を抱きしめた。
似たような背丈の白蘭さんは僕を抱きしめたまま、僕の左耳をぺろりと舐めた。

「正チャンさ、僕に何か隠し事してないかな」弱く噛んだり輪郭をなぞったり耳を口で弄びながら白蘭さんが問う。それが別に痛い訳でも、ましてや気持ちいい訳でもない。

「嘘も隠し事もしてませんよ。安心してください。」白蘭さんの肩をそっと押したら、ようやく耳から口を離してくれた。唾液でぬれた左耳だけがスースーする。
「そう、じゃあ安心するね。」唾液が首筋を伝う、とても不快だ。早く部屋に戻ろう。
「僕はこれで。」
足早に立ち去る僕を、白蘭さんは笑顔で見送った。


コツコツコツコツコツコツ―――・・・。心なしか、いや本当に早足だ。

おかげで思った以上に早く、自分の部屋の前に来た。

スィン、とドアがスライドして足を進める。報告書類はもう出したのだから、今日の仕事は完了した。これからは僕の時間だ。いや、僕と―――この子との時間...。

「正一君。」
パソコンを起動させ、
液晶画面に映し出される少女。一生画面から出てくる事のない人物、最初から画面の中の住人。¨ゲームソフトのキャラクター¨人間が交わるこの世界からすれば、それが彼女を指す大まかな部類である。
でも僕はこの子を、愛している。どうやら僕は人間と交わるのが嫌いらしい。しかし自分はメローネ基地の指揮官を勤める上で、人と関わるのは当たり前なのだ。実際の人と関わりたくない、だから僕はこの子に好意を抱いた。
「正一君。」
彼女はゲームのキャラクター。そしてそのゲームはヤンデレ、と呼ばれる種類のものであった。
「正一君、一緒に・・・死のう?」
実際の人と関わりたくない、死にたいけれど、その理由は自分で選びたかった。そしたら今この瞬間、彼女は何と言った?共に死のうと言ったのだ。僕が待ちわびていた言葉を、愛しい人から囁かれたのだ。

「ああ、一緒に死のう―――。」





































「入るよー、ねぇ正ちゃん、せっかくのオフに申し訳な、い.....んだけど、さ」












白い無機質な部屋は、紅い有機物で染められていた。





――――――――――――――――

はい、第二作目。正ちゃんまた死んじゃったわ。白→正→ヤンデレキャラ。うはー下手。ヤンデレ娘喋ってないなー笑。てか正とヤンデレの下り無いじゃないかハハ!前から言われてた正ちゃんヤンデレ化!マヌケな描写ですんません。

お粗末様でございました。
2010/06/02*

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