彼は任務を終えて血だまりの中に居た。
でも今までとは違うようにみえて。
屍のなかに佇む後ろ姿を見つけて叫んだ。
「ヒバリさん!!」
ただ、その屍たちと彼が同じに見えて怖かったから。
顔をのぞき込めば、出会った中学生の頃から変わらなかった鋭い眼光はなく焦点の定まっていない瞳が綱吉ののど元をぼんやりと彷徨っていた。
靴に服に、首に顔についている血が、散らばる死骸の血だけならば、いつも通りにお疲れ様と声をかけるだけだったのに。
「…」
やっと視線が合った。
薄く開いた唇が微かにふるえているのも、今まで揺らぐことのなかった強い瞳が冷え切ってしまっているのも、武器を握り繰っていた手が縋るようにジャケットを握るのも、全て嘘だと言えればどれだけ安心したか…――
「さ、わだ…」
彼の腹部の紅いシミが嘘だと思いたかった。
「つなよ…さむ…い」
言った途端、雲雀は足から崩れた。そんな彼の背中に手を回してもたれ座らせることしかできなかい自分が情けない。――ふわふわして眠いんだ。
掠れた声で言葉を繋ぐ彼はひどく小さく見えた。
体の中を駆け巡るはずの液体が体を伝って出てしまっているのだから
血が足りないから通常なんて保
「生きてくださいヒバリさん!今医療班が来ますから」
自分が代わってやれるなら
自分の血を分けてやれるなら
幻術を使って少しでも傷を塞げられるなら
なんだってする。のに。
これでもボスと言えるのだろうか
不覚だった。
僕が傷を負うだなんて思わず、敵の放った弾丸に当たったことに気が付いたのは、敵を片付けてからだった。
血が抜けていく感覚がする。
血が巡らないから身体も考えも働かない…なんだか眠りに落ちるときと一緒だ。
こんな穏やかに死ねるなら良いかもしれない。
「ヒバリさん死なないでください!」
なにいってんの綱吉
大丈夫、死ぬ気はないからね。
ただちょっと寝るだけだ。目をつむって何が悪いの。
ねぇ沢田…
ゆっくり目を開けたら 沢田が覗き込んいて
「ねぇ…沢、田…」
さっきより自分の声が掠れていて驚いた。
寝ていたところをたたき起こされたときみたいな…。でも今は不機嫌じゃない。怒る気力もないし、理由がないし、それより、眠りたい。
だから沢田、寝かせてよ。
「ヒバリ、さん。」
焦点があわなくてぼやけるけれど、彼は泣きそうな顔をしている。またあの草食動物みたいな顔に戻ってるよ沢田、綱吉。
「沢田、おやすみ、」
泣きそうな顔がついに泣き顔になった。琥珀色の瞳が潤んで綺麗…――
だから、
「おやすみのキス、してよ。」
いつから僕は、こんなに退行したのだろう。
僕の目の前には涙でぐちゃぐちゃの童顔お化けがいるわけだけど。
幼い頃でさえそんな事してもらった覚えはないけれど。
「寝かせて、」
そんなこと考えてられない程に、もう眠いんだから、
「 」
眠るとき、人肌はこんなにも心地が良いものなんだと知った。
もうちょっと前から知りたかった。
だってもうすぐ、
沢田の腕の
なかで
僕は
「おやすみなさい、恭弥さん。」
2011.05.01修正