「火神、くん………?」


名前を呼ばれ、やっと気付いた時には遅く、黒子は驚いた顔をしていた。とは言っても表情の変化は微々たるもので、それは単なる俺の見間違えの可能性もあるけれど、普段より少しだけ目を張るような顔をしていた。そう、信じられないというような、そんな顔。
黒子にキスをした。普段通りに練習が終わって、マジバに行って、他愛のない会話をしていた。だけどふとした瞬間に黒子の手が俺の手に当たって、やっぱり細いななんて当たり前のことを思ううちに、色んなことを妙に意識し始め、最終的にはそんな俺の異変に気付いた黒子が、火神くん、なんて名前を呼ぶもんだから、とうとう制御がきかなくなったらしい。我ながら他人事のような気分だった。変に意識するまでは黒子をそんなふうに思ったことはなくて、況してやキスするなんて考えたこともなかった。でもさすがにここまでくると自覚せざる得ないのだろうか。アメリカにもその類の人間はたくさんいたけれど、まさか自分がこっち側に来ようとは考えたこともなかった。


「…………ごめんな……」
「……いえ」


それだけ言うと、短く黒子は言い返した。そうだ、俺の中ではある程度整理がついたとは言え、黒子は未だに戸惑っていて当たり前だ。友達だと思ってたヤツにいきなりキスなんかされて、俺の影になるとかなんとか言ってたけど、さすがに嫌われたんじゃないだろうか。というか嫌われない方がおかしい。冷静に考えれば俺、かなりまずいことしてるんじゃないか?
そんなふうに自問自答と続け、気が遠くなるような思いに打ち拉がれていると、黒子が声を出した。


「火神くんは、僕のこと、好きだったんですか?」
「………らしいな」


黒子にキスをする、今に至るほんの数分前に気付いたことだけど、俺は黒子のことが好きらしい。そんな俺の答えを聞いて、黒子は少し考えるような素振りをした後、困ったように俺のことを見た。


「僕、ホモじゃないんですけど……」
「んなもん俺だってそうだ!」


すると黒子はまた驚いたように目を見開いた。言いづらそうに、けれど俺の目を見て、じゃあ僕だからですか、と、言っていた。そんなことを聞かれれば答えざる得ないだろう、そう俺は思い、深く溜め息を吐いてそうだと答える。俺が帰国子女だから、単なるスキンシップか、若しくはからかっているだけかと思ったのだろうか。さっきの表情からするに、少しでも不安にさせたのだろうか。そう思うと心苦しい気分になる。


「あの、火神くん」
「なんだよ………」
「さっきの、嫌じゃなかったです」


人が負い目を感じているというのに、声をかけてくる黒子に少しだけ苛立つも、黒子の言葉を聞き入れて思わず呆れる。黒子なりに心遣いでその言葉を発したのか、それとも心からの本心なのか、それは俺には分からないけど、少しだけ嬉しそうな顔をしている黒子を見て、不覚にも後者のような期待を抱いてしまう。声にならないままで立ちつくしていると、黒子は続けた。


「これが好きなのかは、まだわからないです。でも僕は、火神くんとなら、付き合える気がします」


呆気にとられるくらい遠まわしな言葉だった。だけどそれが黒子の心からの本心だと思うと、思わず笑顔になった。俺の笑顔を見て、黒子もにこりと笑っていた。勿論そんな変化もやっぱり取るに足らないものかもしれない。だけど嬉しくて、黒子を抱きしめた。俺よりずっと小さい黒子の体は今にも壊れてしまいそうな気がして、より一層愛おしく思えた。そして俺は声を張って黒子に言った。



「絶対、惚れさせるからな」 

「じゃあ、楽しみにしてます」




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