『真ちゃん真ちゃん、明日どっか出かけるの?』
『………ラッキーアイテムを買いに行くのだよ』
『ほー……』


以下回想終了。キツイ練習直後、真ちゃんから休日の予定を聞いたオレは簡単なもんだなあと含み笑いをしていた。晴れ渡る青空、梅雨独特の暑さのようなものを感じながら、オレはとある店で真剣にラッキーアイテムとやらを選んでいる真ちゃんを見て、くつくつという笑いを必死に抑え込んでいた。ストーカーなんて卑下た行為をしているわけではなく、これは限りなく偶然に近いことだ。前々からこの近辺の店で真ちゃんが買い物をしていることは知っていたし、オレは目的の本を探すことを目当てにうろうろと店を回っていた。そんな時に真ちゃんを見つけたわけである。195センチの身長にあんなわかりやすい外見を見間違えるわけもなく、しかもその真ちゃんのいる店が明らかに女子が入るであろう店であることもあって、こっちも笑いをこらえるのに必死なわけだったりする。
さてどうしよう。きっと真ちゃんのことだからラッキーアイテムのためならなんでもする勢いでこの店に入ったんだろうし、店員の目なんか微塵も気にしてないんだろうなあ。あの店員、真ちゃんが彼女へのプレゼントでも選んでると勘違いしてんじゃない?なんかものすっごい微笑ましそうな顔で見てるし。しかし彼は自分の運気をあげるためのものしか考えてないんだなこれが。知らぬが仏、まさにその通り。
このまま見ていても十分楽しいけれど、やっぱりここはオレが!なんて思って、オレはその店の自動ドアに身を投じた。目があった店員さんに軽く会釈し、オレに気付くことなく商品を見つめている真ちゃんの肩を掴む。


「しーんちゃん!!」
「ッ…………高尾……!?」


へへーっと笑ってみせると、商品を見ている時の気難しそうな顔から、明らかにめんどくさがっている顔になった。何でお前がいるのだよ、なんて言う真ちゃんに、偶然なのだよと笑って言えば、はーっと深い溜め息を吐かれた。


「ラッキーアイテム選んでるんだろ?なになに?」
「………ヘアピンなのだよ」
「ぶっ!!」


ヘアピン!ってことは何?もしそれがラッキーアイテムだったら真ちゃんが髪の毛につけるの!そう思うだけで笑いが込み上がってくる。緑間真太郎、キセキの世代の一人であり、シュートを一発たりとも外したことない男だ。今はオレの相棒に当たる人材だったりする。才能は十分で、どうせ練習なんかこれっぽっちもしないんだろうと思っていた初対面、しかし彼は淡々と練習を毎日懸命にこなしていた。そんな必要はないんだろうと思っていたオレは、真ちゃんの真面目さに少し違和感を覚える。
だけどそれ以上に違和感を覚えたのは、星座の占いに対して恐ろしいほど執着するその姿だ。最下位だった日にはこの世の終わりのような顔をしていて、一度面白がってラッキーアイテムであるウサギのぬいぐるみを取り上げて走って逃げたその日、オレを追いかけた真ちゃんが廊下で壮大にすっ転び、壁にぶち当ったのだ。オレはその日から真ちゃんに興味を持ち、ひたすらくっついて生活することにしていた。人生面白いほうが得するし?何よりオレは真ちゃんが好きだからだ。


「はー……じゃあオレが真ちゃんのヘアピン選んでやるよ!」
「な、何を言っているのだよ!」
「どうせこの数だから迷ってたんだろ?任せとけって!」


そう言って真ちゃんが見ていた商品を口笛を吹きながら選び始めると、まともなのにするのだよと声が聞こえた。これだからオレは真ちゃんのことが好きなのだ。バスケの時だってそう、邪魔をするなとか、余計なことをするなとか言いつつも、オレのパスをしっかり受け止めてくれるし、なんだかんだで信用してくれている。これってやっぱり自惚れてもいいんだよな、なんてひっそり喜ぶことだってあった。


「じゃあこれ!」
「………」


オレが真ちゃんに差し出したのは赤いピン。なんとなーく赤色って目立つかと思ったからだ。っていうか真ちゃんがヘアピンつけて練習してる姿は目立ったほうが確実に面白い、そんな不純な動機もあるけど。
ヘアピンを受け取ると、真ちゃんは早々とレジへと歩いて行った。あーあ、やっぱり彼女へのプレゼントだと思われてんのかな、ラッピングはいたしますか?なんて言っている店員さんを心底可哀想に思う。その笑顔、もっとほかの人に宛てた方が得しただろうに。そして真ちゃんはレジから帰ってくると、なぜか二つあるうちの一つの袋をオレに突き出した。


「………へ?」
「受け取るのだよ」


それだけ押し付けると、真ちゃんは店を出て行ってしまう。待てよと声を出して追いかけながら袋を漁ると、なぜか黒いカチューシャが出てきた。なにこれ、カチューシャ、って、は?


「これ………なに」
「おまえの星座のラッキーアイテムなのだよ」
「え?……つかこれ、オレへのプレゼントだったりしちゃう?」
「違うのだよ!今日の占いでお前の星座が最下位で、そのままオレの周りを歩かれたら災難があるかもしれないからなのだよ!」


そんな説明を必死にする真ちゃんを見て、思わず吹き出してしまった。つまるところ、オレの星座が最下位で、そのまま一緒にいたら真ちゃんにも害が出るかもしれないからってこと?なんだそりゃ、どんだけ優しいんだよ真ちゃん。そんな言葉が喉元まで出てきたけど、そんなことを素直に言った日にはどんなにふくれ面をされるかわからないから黙っておく。それはそれで面白そうだけど。


「そっかそっか〜、ありがと真ちゃん!大好き!」
「………黙るのだよ」


なんで黒なのかって考えたけど、きっとこれはオレが真ちゃんのペアピンを選んでる時に真ちゃんも選んでたんだろうなーって思った。さすがにオレが来る前から心配して選んでたって思うのは自惚れすぎだと思うから、その考えは置いておく。
にしたってやっぱり真ちゃんは優しい、学校だけの御高く固い真ちゃんからは考え難い行為だ。やっぱりオレ、真ちゃんから一目置かれてたりすんのかな、だとしたらすごい嬉しい。


「よーし真ちゃん!マジバ行こう!」
「一人で行くのだよ」
「んな冷たいこと言うなって!オレがおごる!」


な!と追い込みをかけると、今日だけだからなと真ちゃんに言われる。今日オレの星座は最下位らしいけど、真ちゃんから頂いたラッキーアイテムをつけた結果がこれである。幸せって多分こういうことを言うんだろうなと思い、隣を見たとき、真ちゃんの横顔がどこか嬉しそうだったのは、やっぱり気のせいだろうか。




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