黒子っち、黒子っち、ねえねえ。
時々オレ思うんスよ、なんで黒子っちが青峰っちを光に選んだのかな、って。でも答えはわからなかった。だって二人には共通点なんて全くなかったし、寧ろ対の関係といった方が似つかわしかったから。で、今度の光は火神っち。これまた青峰っちと同じで無神経そうで横暴で、なんというか、エゴイストなイメージしかなかったっス。けど二人が一緒にプレーしてんのを見て、オレ思ったんスよ。ああ、オレじゃ黒子っちの光にはなれないんだな、って。明確な理由なんてない。ただそれは絶望にも近い、諦めで、それと同時にどうしたって黒子っちが手に入らないこともわかったんス。だけどそれが悔しくて悔しくて、辛くて、最初は一生片思いでもいいなんて思ってたんスけど、やっぱりオレ、それじゃ満足できなくて。


「それで拉致ですか……君は本当にバカですね」
「なんとでも言ってくれて構わないっスよ」


オレのベッドの上に座ってる黒子っちは、そう言ってオレのことを鋭く見つめていた。心が痛いとは思うけど、やっぱり後悔してるってことはない。
拉致なんて言われるほど重いことはしていない。ただ黒子っちが今日もマジバにくるんじゃないかなって待ち伏せして、ちょーっとだけ手荒っスけど、手加減してお腹にストレート決めさせてもらって、そんでオレの家まで連れてきた。幸い黒子っちは背も体重もそこまでないおかげで安易に運べたし、通行人にもそこまでおかしな目で見られることもなかった。本当はもっともっと抵抗されると思ったから、色々考えてたんスけどね。


「一体なにが目的なんですか」
「そうっスね、やっぱり目的は黒子っち自身じゃないっスか?」


どうしたって手に入らないと思った瞬間に、理性というものが自分の中で消えていった気がした。黒子っちがオレに見せる笑顔なんて営業スマイルにもならなければ、愛想笑いでもない。
こんなにオレは思ってるのに、それを簡単に覆すように笑顔の黒子っちの隣に居る青峰っちも火神っちも、憎くて仕方なかった。もっと大人でかっこいい自分を想像してたけど、オレはやっぱりまだまだ子供みたいっスね。



「オレは黒子っちのことを傷つけようなんて考えてないっス。ただ隣に居てくれれば、それでいいっスから」
「そんなこと言われても……困ります。ボクも君も学生なんですよ?学校はどうする気ですか?」
「そんなのやめちゃえばいいじゃないっスか。っていうか、無断欠席が続けばその内退学にでもなるっスよ」
「………ッ……黄瀬君!!」


その時初めて黒子っちがオレに手をあげた。だけどオレと黒子っちの体格差なんて明瞭、安易に黒子っちの手を受け止めてベッドに押し倒した。最低です、黒子っちが小さく呟いた。そう、オレは最初っから最低な人間なんスよ。片思いでもいいとかほざいてたあの頃が懐かしいっスよ、今じゃこんな欲望丸出しの最低な人間になってるんスから。


「わかってるんですか?……君のやっていることは、犯罪だ」
「わかってるっスよ。逆に言えば、不法行為だってわかってる上でこんなことするほど黒子っちのこと好きなんスよ?」
「こんなの絶対……火神君が、許しませんから……」


火神、その言葉を聞いた瞬間に、どうしようもない感情が自分の中から湧き上がってきた。嫉妬?羨望?それがなにかなんてわからない、だけど、心の底から火神っちを憎く思って、目の前で挑発的な目を向けている黒子っちだって殺したいくらい憎く思った。こんなのおかしい、そう頭ではわかっているはずなのに、身体が言うことを聞かない。


「なんでそうやって………火神火神って!!」
「っ……!」
「オレ、本当に黒子っちのことずっとずっと好きだったんスよ?今だって黒子っちのことが好きで、本当に……世界で一番、黒子っちのこと大切に思ってる自信だってあるんスよ……」


自分が気持ち悪く思えた。だけどそれはオレの心からの本心で、止まることのない言葉がただただ黒子っちを追い詰めていることだけはわかった。もうどうにでもなればいい。そう思って優しく黒子っちを抱きしめる。相変わらず細い身体、そう思った。


「それでもボクは……黄瀬君の気持ちには答えられないです」
「知ってるっスよ」
「…………え」
「だから黒子っちのこと拉致ったんじゃないっスか。あ、でもこれからは拉致監禁っスから……罪、もっと重くなるっスねえ……」


超然と、けれどどこか面白く思う様にそういうオレの姿を見て、黒子っちは怯えているようだった。小さく身体を震わせ、引き離そうとしているけれど、身体に力が入らないのか、そのまま諦めてしまっている。


「一週間でも一ヶ月でも、場合によっては一年でも構わないっス。黒子っちがオレと同じくらいオレのこと好きになって、それで、もう二度と他の光なんて求めなくなる。それが今んとこ目標っスかね」
「なにを……言ってるんですか……?」
「そのためなら少しくらい壊れたっていいっスよ、オレはどんな黒子っちでも愛せるっスから」


けたけたと面白そうに笑うと、黒子っちは目を大きく見開いて、ただ息を飲んでいた。そしてそのあと、全てを諦めたように力の抜く。その様子はどこかで見たような、ああそう、黒子っちのこと思ってたときのオレっスね。けど大丈夫、例え黒子っちが壊れても、火神がここに殴り込みに来たとしても、何があってもオレは黒子っちのこと見捨てないっスよ。だって世界で一番黒子っちのことが好きで、そんで、もうじき黒子っちもオレのこと、そんなふうに思える日が来るんスから!


「だーい好きっスよ、黒子っち!」





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