何かに囚われることはあまり好きではなかった。何に関しても自分のペースで、自分の考えで生きることが好きで、その結果がオレに齎したものは何かといえば、孤立という状態。おまけに周りはオレのことをどこか危ない奴だという認識をしているらしく、怖がられることなんてしょっちゅうだった。バスケをしている時は、そんな面倒なことだって全部忘れられる。バスケをしている時は自分自身を一番感じることができて、面倒なことなんて何もない。ただただ楽しむことが出来た。
自由奔放、そんな言葉がぴったりですね。なんてことをオレに言ってきた人間が一人だけいた。周りはオレと関わることすら毛嫌いしているというのに、そいつだけはどうしたってオレに付きまとってきた。否、オレ自身もあいつに付きまとうことも度々あった。その人物の名前は黒子テツヤという。オレと何処までも真逆のクソ真面目な奴で、何かとオレを怒ることが多かった。だけどバスケという一点においてオレとあいつの相性はどこまでも合っていて、オレはあいつの光になっていた。本人からそう言われた時は何かと思ったけれど、もちろん嫌な気はしなかった。

束縛されることをなによりも嫌っていたオレ自身が、まさか誰かを抑圧したいなんて思うことがあるなんて、思いもしなかった。


「テツ、携帯光ってんぞ」
「無視して結構です。どうせ黄瀬君ですから」


ふーん、なんて興味なさげな返事をするものの、内心は苛立って仕方なかった。テツが携帯を所持し始めて数週間、黄瀬の奴はやたらめったらテツにメールをしているようで、ここのところテツは携帯を見たくもありませんと言い張っていた。あいつは本当にバカだなとしみじみ思うと、行き場のない思いに戸惑い、本を読んでいるテツに抱きついた。


「どうしたんですか?」
「いや、べつに………」
「そうですか」


テツは俺が抱きついたことに関して何か言う様子もなく、再び本に視線を戻してしまった。チカチカと点滅を続ける携帯に視線を向けると、そのままテツの携帯を手に取った。テツはやめてくださいとか、とにかくそれを止めることなく読書に熱中している様子で、まあいっかと軽い気持ちで受信メールを見つめていた。
黄瀬君黄瀬君黄瀬君、腹が立つ名前で埋め尽くされた一面を見て、思わず溜め息を吐いた。ちょびちょびとオレの名前やバスケ部の誰かの名前が入っているけれど、黄瀬の数は異常と言っていいだろう。しかも途中から読むこともしていないのか、未読メールが大量に残っていた。
オレより多い、そんな些細な事になぜか不快な気分になり、黄瀬のメール、と言わず、オレ以外のメールを一斉削除した。我ながらなんて子供みたいなことをしているのだろう、そう呆れるけれど、もうしてしまったのだから仕方ない。それにこのくらいじゃテツも怒らないだろうという確信もそれなりにあるし、そのまま携帯を閉じて元あった場所に戻した。


(ほんとにオレ、なにしてんだか………)


テツの肩に顔を埋めながらそんなことを考える。オレは別にホモじゃないし、テツが好きなんてこともないと思う。だけどテツが誰かと話しているといい気分にはならないし、それはもしかすると、相棒という関係に浮かれているからかもしれない。テツはあまりコミュニケーション多彩な人間とは言えないし、そんなテツと普通に接することが出来る自分だけが特別な存在なんだと、思っていたからかもしれない。


「なあ、テツ」
「なんですか」
「………悪い、なに言おうとしてたか忘れた」
「………青峰君はいつもそうですね」


バスケばかりやってるから頭が衰えてるんじゃないですか?なんて謗言を吐くテツを横目に、オレの頭の中にはおかしな考えだけが存在していた。テツのことをオレだけが独占できればいいのに、なんて、そんな子供っぽいことが。
他の奴としゃべるなよと、テツに言ったらどうなるのだろうか。きっとテツはどうかしたんですかと本気で心配し始めるだろうし、もしかすればわかりましたと案外素直に返事をするかもしれない。これはいくらなんでもオレの主観すぎるか。

オレがテツに抱いている感情が何であったにしろ、何かに囚われることを一番嫌っていた自分が、誰かを独占したいなんて考えてしまうことがおかしくて仕方なかった。人間いくらでも変わるもんなんだなと、卑屈染みた思いがオレの中にいつまでもあった。これがもし、テツに対する思いがもし恋情だったとして、告白した時、テツも同じ気持ちなんじゃないかという淡い期待が自分の中にあることも、やっぱりおかしいと思った。





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