共依存というものが、この世には存在する。特定の人間関係に依存し、自己の存在意義を認めてもらおうとし、過剰な献身を繰り返すなどの行為があるという。僕はそんな文字を目で追うと、満足げに辞書を閉じた。やはり教育の賜物だったということだろうか。それとも元々彼という存在は脆く儚いものであり、安易に僕に依存させることができたのだろうか。前者であれ後者であれ、それが僕にとって喜ばしいことに違いはないだろう。


「赤司君……」
「テツヤ」


人間と言うのはとてもわかりやすい存在だ。一時の情と充足感に身を任せ、最後にはそれから抜け出せなくなってしまう。麻薬のようなものだと自分で自覚した上でそれに付け込む自分の存在を愚かだとわかっていながらも、追い詰められるような感情に勝てないのだろう。本当に救いようのない存在だ、なんて、思うけれど、だからこそ僕はそんな盲目的な人間に彼を、作り上げたのだけど。


「どうしたんだ?そんな不安そうな顔をして」


理由なんてわかってる。だけど、彼の不安げな顔を見るのが楽しくて、そんな表情が愛しくて、思わずわかりきった質問をしてしまった。すると彼は、テツヤは僕の元に駆け寄り、ぐっと制服の裾を掴みながら言った。


「夢を、見るんです」
「赤司君がボクのそばから、居なくなる夢を」


そんな言葉を聞いて、口元が釣り上がるのを押さえるのに必死になってしまう。気持ちの安定していないテツヤは已然としてボクの傍から離れようとしない。本当にテツヤという人間は弱く、脆く、そして可愛らしいものだとつくづく思い知らされる。
僕とテツヤが所謂共依存の関係になったのは、少しばかり前の話。バスケで伸び悩んでいるテツヤが一人練習している姿を見て、僕はテツヤの相談者になることを約束した。最初は遠慮がちだったテツヤの言葉も次第に本音が垣間見えるようになり、最後には泣きながら、僕に縋り、テツヤは言っていた。


『バスケが、好きなのに、ボクは………なにもできない……っ』


か細い沈痛な声は、一瞬で僕の中で何かに到達した。目の前で無力さに泣く彼を見て、僕は、テツヤが──欲しくなった。好きなことを満足にできない自分の愚かさに泣くテツヤを、僕だけのものにしようと思った。だから僕はテツヤを抱きしめると、こう囁いた。


『大丈夫、テツヤにはパスがある』


僕に全て任せてくれればいい。そんなことを言ったような気がする。するとテツヤは僕に抱きしめられる身体を動かすことなく、ありがとうございますと、小さく呟いた。こうしてテツヤは僕という、自分を認めてくれた、自分の存在を見出した人間を必要とし、それがいずれ愛幕となったのだ。
それからは簡単なものだった。テツヤのパスの力を最大限に引き出し、キセキの世代へと成長させていった。試合で勝つ度、赤司君のおかげですと笑うテツヤを見て、悪い気はしなかった。けれど勝つことは生きていくことで当然のことであり、それで一々お礼は必要ないのにとは思った。


「赤司君」


だから今、目の前のテツヤは、僕という存在を生きていく上で絶対的に必要なものだと思っている。テツヤの中で、僕は神に等しい存在なのかもしれない。


「赤司君は、ボクのそばに、ずっと居てくれますよね?」


夢を見るほど不安にさせてしまってすまない、そう優しく言うと、僕はテツヤを抱き締める。あの日のような手付きで触れると、テツヤは嬉しそうに少しだけ笑顔を受かべていた。


「当たり前だろう」


それだけ言うと、テツヤも僕の背中に手を回していた。始まりはどんなに小さな存在だったのだろうか、それが今でもこれほどまで大きな存在に徹しているのは、きっとテツヤという人間自体が僕にとって麻薬のようなものだったからだろうと思う。だからテツヤだけ僕を必要としないのは許さない、この先も、ずっと。だから僕はテツヤを変えたのだ。僕だけを見る、僕だけを必要とする、そんな人間に。


「愛してるよ、テツヤ」


だから大丈夫、もう二度と、逃がすことなんてないから。



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