*中二のころのお話




オレの好きな子はそれはそれは変わり者で、びっくりするくらい存在感がなくて、それでいて自己主張というものをしないもんだから、よっぽど周りをちゃんと見ている人じゃないと気付けない、そんな存在だったりする。しかも周りに無頓着で、常に自分の世界を持っているというか、話しかけても簡単には返事をしてくれない、そんな子だったりする。これだけ言えばいいところなんてないけれど、色が白くて腕なんかオレの半分くらいしかないんじゃって思うくらい細くて、身体もほっそりしてて、とにかくかわいい子なのだ。オレはこの子に片思いをし始めてから変わったとよく言われる。それが褒め言葉なのかは分からないけれど、とにかくオレはあの子が、黒子っちのことが大好きだった。


「ねえねえ黒子っち!」
「………黄瀬君?」


昼休み、一人黙々とご飯を食べている黒子っちに声をかける。最初の頃はあまり相手にしてくれなかったけど、最近はこの通り名前を覚えてもらうところまで発展したのだ。こんな程度で喜んでしまう自分が情けないけれど、やっぱり嬉しいから仕方ない。


「あの、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」


そんな黒子っちの言葉を聞いた瞬間、食べていたパンが喉に詰まるかと思った。なんせ黒子っちから声をかけられたのは初めてで、今の今までオレからしか声をかけたことはなかった。会話も俺から振っていたし、黒子っちはそれに答えてくれる程度のものでしかなかった。しかも聞きたいこと!これはもしかしてオレ、確実に黒子っちと仲良くなってる!そんな気持ちが先走りし、どうかしたんスか?なんて平常心を保った返事をしつつも、内心は焦ってばかりだった。


「いえ、なんでこうも毎日ボクの相手をしてくれるのか、不思議で」
「………は?」
「ですから、黄瀬君はボクと違ってお友達が多いじゃないですか」


それなのにどうしてボクなんかの相手をするんですか?なんて、首をかしげて、本当に不思議そうに聞く黒子っちを見て、今すぐ抱きしめて好きだからに決まってるっスと言いたくて仕方なかった。それができれば幸せなんだけど、もちろんそんなことはできない。そして黒子っちの様子を察するに、当たり前だけどオレの気持ちにはやっぱり気付いてないらしい。自分で言うのもなんだけど、オレ、黒子っちのために色々頑張ってるのになあ。そう思った。


「なんでって……黒子っちと仲良くなりたいからに決まってるじゃないっスか」
「ボクと、仲良く?」


黒子っちは怪訝そうな顔でそう繰り返すと、変わった人もいるものですねと呟いていた。二年になってから早数ヶ月が経っている。オレは早々とクラスにそれなりに友達なんかもできているけれど、黒子っちは目も当てられていないというか、まず居ることに気づているのかすら不安な感じだったりする。だからこそオレはそんな黒子っちに興味を持って、こんなふうに接しているのだけど。
理由が不義理なことはわかっている。好きだから仲良くしたい、なんて、それは下心を隠したものだけど、オレが黒子っちを知りたいのも本当のことだから。だけどやっぱりうるさかったかな、とか、喧しいと思われてるのかな、そんなことを思うと急に不安になってきた。オレは知らず知らずのうちに黒子っちに迷惑をかけてたんじゃなかろうか。


「もしかして、オレ、迷惑だったっスか………?」


食事の手を止め、隣に座っている黒子っちの方を見てそう言った。不安だった。もし馴れ馴れしくしているのが気に障ったなら、距離を取るくらいの気持ちはあった。ドキドキと心臓が音を立てる中、黒子っちは特に気にすることなく、お弁当を食べたまま答えた。


「……………迷惑なんかじゃ、ないです……」


それは普段から声が大きいとは言えない黒子っちの、いつもの倍くらい小さい声だった。迷惑じゃない、その言葉が嬉しくて、それだけでも嬉しかった。そしてオレはもう一つの黒子っちの異変に気付いたのだ。そう、耳が少し赤くなっていた。顔をあげないのはもしかしてと思ったけれど、照れて顔が赤くなっているんじゃと思った。でもそれは当たっていたらしく、こっちをあまり見ないでください、なんて黒子っちが言うものだから、ぶわわわっと自分の中で押さえていた気持ちが爆発するかと思った。


(ああもう……ほんとに、かわいい!)


友達として当たり前だと言われるかもしれない。だけど黒子っちがオレのことでこんな表情をしてくれたことも嬉しかったし、迷惑じゃないと言ってくれたのも嬉しかった。このくらいの当たり前で喜べるなら、一生片思いでいい。そんな錯覚を一瞬起こしかけたのだけど、すぐにそんな気持ちはオレの中から消えた。そうだ、オレのことをもっと知ってもらって、黒子っちにもオレのことを好きになってほしい!

恋は盲目、とは本当に言ったもので、オレは本当に毎日黒子っちのことしか考えられなくなっていた。そしてオレが黒子っちに近づきたい一心でバスケを始めたのは、もう少しだけ先の話。




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テーマ「人外ファンタジー」
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