「あ、」


本屋で足を止め、ボクが読むには不釣り合いな雑誌を手に取った。パラパラとページを捲っていくと、そこには黄瀬君がたくさん映っていた。中学のころからモデルの仕事を続けてはいるし、見慣れていると言えばそうなのだけど、相変わらずですね、なんて思ってしまう。仕事とバスケの両立をしているというのに、バスケの方は相変わらず見たいだから本当に感嘆の声しか出てこない。
こうして見てみると、同性のボクからでもかっこいいとは思える。けれど普段の彼を知っている身としては、こんな時ばかりかっこよくてもと呆れてしまう。そもそも何でボクがこんな雑誌を手に取っているんだろう、冷静に考えると自分が恥ずかしくなってきて、すぐに雑誌を閉じる。


「おい」
「!」


肩に手を置かれ、反射的に振り返る。そこには明らかに不機嫌そうな顔をしている火神君がいて、不覚にも、黄瀬君じゃなくてよかった、そんなふうに胸を撫でおろしている自分がいた。しかしそんな安心もつかの間、火神君はいつもより低い、どすの利いた声で言った。


「なに読んでんだよ」
「………?」


ふと手に持っている本に目を向けると、先ほどまで読んでいた雑誌を持っていることに気付いた。まずいと思った時には遅く、表紙に映っている黄瀬君を見たのか、火神君は険しい顔をしていた。ボクも漸く意味を持して、溜め息を吐いた。
そう、ボクと火神君は付き合っていたりする。ある日火神君から告白されて、それまでは彼を特に意識したことはなかった。けれどそれまで平然と接してこれたのが一変し、手が触れるだけで心拍数が上がる事件が多発した。これが一般論で言う、恋なのだろうか。そんな思いが胸裏を掠め、ボクも心得る返事を返した。そうして付き合うこと数週間、それまで特に口出しされることのなかった黄瀬君との仲に対し、火神君は口煩くなった。もっと警戒心を持て、とか、隠れて会う(というか黄瀬君が一方的にボクに会いにきているのだけど)ことなんてあれば、殺気立つように怒りをぶちまけられた。本気で怒る火神君は本当に怖くて、そこまでボクのことを愛してくれるのは嬉しいけど、いくらなんでも妬きすぎですと、思うことも多々あった。それからボクと火神君は一緒に帰ることが多くなっていたのだけど、今日は本屋によって遅くなるからと、火神君に先に帰ってもらったのだ。だからこそタイミングが悪かったというか、なんで火神君がここに居るのかもわからないのだけど、今はそんなことを悠長に考えている暇はない。


「えっと、あのですね」
「…………………」
「これは違うんです、たまたま黄瀬君が目に入ったから見ていただけでですね」
「へー」


妙に誤魔化すような、適当な返事をするときの火神君は、大抵マジギレする合図だったりする。これ以上怒らせると本当に恐ろしい事態になりえない、そう思ったボクは、とりあえず雑誌を下あった場所に戻し、手を組んで恐ろしいくらいに怒気を漲らせている火神君に、背伸びをして言った。


「安心してください、火神君の方がかっこいいです」


そう言い残し、その場から即座に避難した。最後に見えた火神君の顔は嬉しそうというか、突然の発言に反応すらできていなかったけれど、多分あれ以上怒りが大きくなることはないだろう。そう安堵していた。だけどボクと火神君の足の速さなんて一目でわかるもの、追いつかるのも時間の問題だろう。


(本当に、扱いにくい人ですね……)


別に嫌いではないのだけど、むしろ好きなのだけど、やっぱり火神君の嫉妬のしやすさには呆れてしまう。だけどさっき見た火神君の顔、あれは、嫌いじゃない。もっとあんな表情が見たいな、なんて思ってしまうし、こんなことを考えていることが火神君自信にばれれば、それこそ三日くらいは口が訊いてもらえない気がする。そんなところも好きなのかな、なんて思っていると、後ろからどんどんという足音が近づいてきた。


浅はかな考えを持っていたボクが、火神君に本気で説教をされたのは、また別の話。





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