02 第七官界彷徨


 冬は何しろ陽が落ちるのが早い。あっという間に夕方から夜の帳の下りた学校内を点検し終わった義勇は、職員室の電気を消しそして職員用の駐車場へと急ぐ。車内には宇髄が待っているはずなのだ。
 足の運びを早いものにさせ、そして校門を抜けたところで急に眼の端にぬるっとした影が映り、思わずそちらを見るとそこには一人の女生徒が立っており、暗闇でも分かるほどに顔が火照って、汗をかいているのが分かった。
「と、とみ……冨岡先生!」
「……生徒は早く家に帰れ。大体、こんな時間まで外にいるのは危険だ。生徒になにかあってはこちらも困る」
「あの、あの……わた、私ずっと、ずっと先生のことが好きで……ずっと見てきて、せ、先生とその……お付き合いを、したくて」
「生徒とそういう関係になる気はまったく無い。あくまで俺は教師で、そしてきみは生徒。そういう眼で見ることはできない。きみも、俺なんかに構っていないで他の男子生徒に目を向けて健全な交際をしなさい」
「わたし……ふられたって、ことですか……?」
「まあ、そうなるな。俺にその気がないということは、きみの気持ちは迷惑ということだ。分かったら、帰りなさい」
 女生徒は震えながら涙を流し、そのまま踵を返して走り去ってゆくその後ろ姿を眺める義勇だ。ああいう時はハッキリと断った方がいい。その方が、生徒のためでもある。
 あれは、未来の義勇の姿だ。宇髄の熱にどっぷりと浸った義勇が、ふられて構われなくなりそして泣きながら立ち去るあの後ろ姿は間違いなく、自分の想像と被る。
 一つ溜息を吐き、車へ向かおうと歩き始めると珍しく、宇髄が車に凭れかかるようにして立っており、空を眺めている姿が目に入った。
「珍しいな、寒いだろう車の外へ出ていては。風邪引くぞ」
「ああ、来たか。いや、いつもより遅いなと思ってさ。車乗れよ、めし行くぞ。今日は寒いからあれかな、うどんとかいいかな」
「いいな、うどん。熱いものをたらふく食べたい」
 そう言って宇髄の愛車へと乗り込み、シートベルトを締めようとするが宇髄はハンドルを握ったまま下を向いてしまっており、その様子に思わず隣を見ると途端だった。眼を光らせた宇髄ががばっと覆いかぶさってきて、押し倒されながら背に腕が回りぎゅっと抱きしめられる。
 こんなことは初めてで、驚いているとさらに骨が軋むほどきつく抱かれ、宇髄は大きく息を吸ったり吐いたりを繰り返し、義勇の括ってある髪に手を入れぐしゃっと手の中で潰した。
「どうした、宇髄。なにかあったか」
「……んもねえ。なんもねえけど……オマエ、ああまあ、いいや。いい……」
「宇髄……?」
 そろりと首元に埋められていた顔が上げられ、義勇も姿勢を正すと徐々に整った顔が近づいてきて、身動きもせずにじっと見つめていると唇に宇髄の吐息が当たったが、それ以上は動かずにそのまま止まってしまった。暫く時が流れたが、宇髄はどうやら珍しく逡巡しているようで、義勇は腕を持ち上げて宇髄の首に回し口を開いた。
「キスが……したいのか?」
「……したい。したい、けど……」
「だったら、黙ってすればいい。俺は、構わない。ほら……来ていいんだぞ」
 義勇の言葉に誘われるよう、宇髄の顔がかすかに動き、そっと義勇のそれと重なり合う。キスをするのは、これが初めてだ。身体の関係はあっても、キスだけは何故か宇髄はしてこなかった。それになにか意味があるのかどうかは分からず、今も何故、突然キスなどしたがったのかは分かりかねるが、義勇にとっての初めてのキスの相手は宇髄だ。初体験の口づけは甘く、そして優しかった。
「ん……」
 その触れ合いは長く続き、初めは少ししか押し当たっていなかった唇が徐々に強く重なり合い、義勇の唇はぴったりと宇髄のそれに塞がれてしまった。生温かな感触だ。そして、甘い。
 思わず首に回している腕に力を籠めると、さらにぎゅっと唇同士が触れ合い、徐に宇髄の手が持ち上がり、義勇の両頬を包み込み唇を舐めてくる。手は優しく頬を撫で、そっと唇が離れるがそれがどうしても惜しく感じた義勇はもう一度、引き寄せるようにして宇髄の唇に自分のものを合わせて再三のキスを強請る。
 何度それを繰り返しただろうか。どちらかが離せばどちらかが引き寄せ、引き寄せれば必ず唇を合わせることになる触れ合いに義勇はすっかりと身体を熱くしてしまい、宇髄の着ている服を指で引っ掻きながら幾度となく交わされる浅い口づけに溺れた。

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