06 はじまりの吟


「宇髄?なにするんだ、宇髄」
 宇髄は答えず、顔を下へと寄せ、義勇のささやかなへこみのあるへそを何の前触れもなく舐めた。
「ヒッ!あ、あ……や、だ……待って、まってくれ」
 何度も何度も舐め、だんだんと熱持つ下腹に戸惑っているとちょうどへその横にぢゅっと音を立てて吸いつかれた。
「あぁっ!……うー……!」
 あんまりにも長い間吸いついているものだから、恐る恐る宇髄の流れる白髪を引くと、漸く唇が離れてゆくが皮膚には真っ赤な血だまりのようなものが浮き上がっており、宇髄はその痕を指先で撫で、一つそこにキスを落とした後、身体を伸び上がらせて義勇と視線を合わせた。
「この痣見たら俺を思い出しな。オマエは俺のモンだって。言っとくが、俺は……おれ、は……ほん、き……ほ、ん、き……」
 宇髄の身体が力を無くし、ずる……と義勇の身体に覆いかぶさって来る。そして、耳元で聞こえる健やかな寝息。
「……寝て、しまったのか……」
 ホッと身体の力を抜き、そのままの姿勢でいるとなんだかだんだんと心臓が妙な具合に脈打ってくるのを感じた。
 ドキドキと耳元で心臓の音がダイレクトに伝わってくる。
 義勇は匍匐前進で宇髄の下からなんとか抜け出し、開いているパーカーの前を掻き合わせ、荒い呼吸を繰り返しながら熱くなった身体を持て余しつつ、心臓の鼓動が正常になるのを待つ。
 息が整わない。先ほど宇髄の身体と密着していたからか、自身の身体からも宇髄のかおりがして、それも義勇の心を乱す一因となって、先ほどの行為を思い返すと頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
 ふらふらと立ち上がり、キッチンへと行きグラスに水を満たしてごぐごぐと思い切り飲み下してゆく。
「はあー……」
 シンクに両手をつき、目を瞑った義勇は暫くその体勢で止まっていたが、玄関に放り出してある宇髄に気づき、先ほど使ったグラスを洗った後、玄関へと足を運び、ぐっすりと眠っている宇髄の身体を揺する。
「宇髄、宇髄起きろ。ここで寝てはだめだ」
 ゆさゆさと揺さぶったところでその両手が震えていることに気づき、義勇は宇髄の服をぎゅっと強く握りしめた。
 身体が熱い。抱きしめられたところ全部、熱いと思う。
「宇髄!」
「ん……んん、うるせぇなぁ……いいからテメエはこっち来い」
 強引に手首を取られたと思ったら、思い切り引き寄せられ、あっという間に義勇は宇髄の腕の中にすっぽりと入ってしまい、スリスリと頬ずりされるそれに顔を熱くした。
「う、宇髄っ……!」
「あー……義勇のにおいするわ。いいにおい……」
「宇髄!寝ぼけてないで、寝るならベッドへ行け!」
「……オマエも一緒か?なら行く」
「い、行かない!俺はソファで寝る。ほら、案内するか……ン!ん、ン!」
 言葉は途中で途切れ、突然降ってくる強引な口づけにさらに身体が熱くなる。
 必死に何とか腕の中から抜け出そうとするが、宇髄の怪力にはどうやったって勝てるはずもなく、息を乱しながら咥内に入って来る舌の動きから逃れようとするが、そうすればするほど、宇髄はムキになってさらに舌を舐めたり噛んだりを繰り返すようになり、またしても義勇は宇髄の背を叩くことになる。
「ん、んー!んっふ、うっ……ううっ、ふっ、う、ンッ!ンッ、ンッ!」
 徐に唇が離れて行き、荒い呼吸を繰り返す義勇を宥めるかのように両手が背に回り、上下に撫で擦られ、そのうちに両手の動きが散漫になったと思ったら、急に宇髄の身体が力を無くしそのまま、本日二度目となる健やかな宇髄の寝息が聞こえるようになる。
 いい加減、義勇も腹を立てたくなる。一体なにがしたいのか。
「寝るなら寝る!起きるなら起きるでハッキリしろ!」
 腕の中で息を乱し、身体を熱くしながら言うセリフではないことは分かるが、一言なにか物申してやりたいが何しろ相手は酔っ払い。
 それに、時間もそろそろ深夜に向かっているのではないか。明日も学校だ。
「宇髄、起きろ。ベッドへ行くぞ。さもなくば、ここで寝てもらう。俺はもう寝る」
 しかし、何しろお人よしの義勇。そんなことができるはずもなく、甲斐甲斐しく宇髄の履いていた靴を脱がせ、そして背に抱える形でベッドまで引き摺ってゆく。
「お、重いっ……!ううう、なんでこんなことにっ……宇髄、重い」
 ベッドルームへ入り、そして思い切りぶん投げる形で宇髄をベッドへと降ろすと、どさっという音と共にスプリングがかなり大きな軋みの音を立てた。
 肩で息をし、呼吸が正常に戻る間、義勇はじっと宇髄を見ていた。寝顔も男前とは。
 先ほど、この男とキスをしたのだ。それも、濃厚なものを。義勇にとっての初めての口づけは、宇髄ということになる。唾液も飲んだ。甘くて、濃くて生温かな宇髄の体液。
 思わず唇に指を当ててしまう。
 柔らかかった。甘い味がして、温かくて、気持ちよくて、もっとして欲しかった。
 そんな義勇の視線は、宇髄の懐へ向かう。あの場所へ行けば、きっと気持ちがいいだろう。宇髄のかおりがして、体温の感じられる一番宇髄に近い場所。あの場所はきっと、義勇が想像するよりももっと、心地がいいだろう。
 ふらふらと吸い寄せられるようにしてベッドへ向かう義勇だったが、ふと居酒屋での宇髄の言葉を思い出す。そういえば、粥が食べたいと言っていた。粥まではいかなくとも、たまご雑炊には少し自信のある義勇だ。
 寝室から出てキッチンへと向かい、冷凍庫を開ける。そして、ラップに包んである何個も用意された冷凍ごはん。その二つを、そっと冷蔵庫へと移動させ密かに笑む。
 明日、きっと飲み過ぎで胸やけがひどいだろうから、このたまご雑炊はきっと喜ばれるだろう。
 服をみてもらった礼というわけでもないが、なんでもいいから少しでも宇髄の喜ぶことをしたかった。
 冷蔵庫の扉を閉め、そして寝室に戻ると宇髄はそのままの姿勢でぐっすりと眠り込んでおり、義勇は心臓を跳ねさせながらそろりと宇髄の隣へと寝転び、震える手で紫色の服を掴む。
 ふわっと宇髄のにおいが鼻に掠り、義勇は思い切り息を吸い込んでにおいを鼻に取り入れる。すると、何故か徐々に気持ちが落ち着いてきて、そしてやってきたのはとてつもない安心感だった。

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