05 はじまりの吟


 その間も、宇髄は隣に座る義勇の膝の上に手を置いて撫でたり、髪を引っ張ったりと道中忙しくいじり倒してくる。
 義勇としては、何故こんなことをされるのかまったく分からず、ただ宇髄が触れると心臓が少しだけ早く鼓動を打つことだけは分かった。それがなにを意味するのかまでは分からず、自宅であるアパートに着く頃には義勇の心臓はとくとくと鳴りっぱなしで、タクシーから宇髄を引っ張り出す時も同様に、宇髄に触れると心臓がおかしなことになる。
 とにかくタクシーと無事、お別れした義勇は半分眠っている宇髄を抱え、二階の自室まで歩いてゆく。その際、がさがさと袋が擦れる音がする。ほぼ夜中の今、静かに帰りたいがそれは無理らしい。
「鍵、鍵は……」
 アパートの鍵はいつも尻についている左ポケットの中と決めている。手を突っ込むと硬い感触がして、何とか鍵を開けて宇髄を引き摺り込む。
 まずはショップの袋を玄関へと上げて、次いで宇髄を家に上げようとしたところだった。寝ぼけているのか、玄関の扉が音を立てて閉まった途端、両腕が義勇の腹に周り、ぎゅうっと力を籠めて抱きしめられたのだ。
 後ろからだったので顔は分からないが、その目が開いているのか瞑っているのかさえ分からず、思わず「宇髄……?」と声をかけた。何故だかまたしても心臓の調子がおかしくなり始めている。
「宇髄、寝ぼけているのか?」
 すると、徐々に体重を掛けられ、何しろ大柄な宇髄だ。ドタンと音を立てて二人の身体が玄関に転がる。
「義勇……」
 耳元で下の名前を囁かれる。思わず背筋がぞくっと震えた。どうしてそうなったかは分からないが、宇髄は寝ぼけていない。それが分かるほどには、熱の乗った声色だった。
「う、宇髄……あの、離れてくれないと……」
「義勇、ぎゆう……」
 ごそっと、宇髄の手が腹の下に入り、パーカーの中に着ていた黒色のシャツの中へと入り込み、素肌を撫で擦って来る。
 これには驚く義勇だ。酔っているにも程がある。
「よ、よせ宇髄!さすがにこれはやりすぎだ!ん、ちょ、っと……あ!」
 明らかに性的な目的を持っての触れ方に、思わず妙な声が出てしまう。すると、耳元で宇髄が薄く笑った。
「……感じた?」
「か、んじて、ないっ……!いいから離せ。って、言って……んっ!あっ、や!」
 両手が服の中へと入り込み、脇腹の緩いカーブを撫でたり、女の乳房を揉むように胸を撫でてきたり、そのたびに訳の分からない感覚が義勇を襲う。
 それが快感だと気づいたのはだいぶ後になってからで、その頃にはすっかりと義勇の息は上がっており、しっとりと肌に汗をかいていた。
「オマエって、すげえいいにおいするのな。てか、肌がすげえ気持ちイイ……」
「んっ……あっ、はあっ……だ、から、離せと何度も、言って」
「離していいのか?感じてんだろ、俺にこうされて」
 きゅっと右乳首を抓まれ、思わず身体がビグッと跳ねる。
「あっ!やっ!あっ……う、んっ……!」
「ほら、気持ちイイ。だろ?」
「や、だっ……ちがう。こんな、だって……」
「だってなんだよ。俺にこうされて恥ずかしいとか?もっと恥ずかしいことしても、いいんだぜ?」
「も、もういいっ……離せ。離してくれ」
 義勇が宇髄の手に自身の手を重ね合わせると、無理やりに体勢を変えられ仰向けにされたと同時に、至近距離に宇髄の顔があり、思わず暗闇の中でも光って見える紅色の瞳に見惚れていると、徐々に顔が近づいてくる。
 なにをされるかも分からず、そのまま紅色に見入っていると最早、逃げ切れない位置にまで宇髄が近づいており、唇に柔らかくて湿った感触が広がる。
「んっ……ん、ン!う、ず……ん、ふっ……」
 咥内に甘い味が拡がる。くちゅ……と音を立て、違う角度でまた触れ合い、それがキスだということにやっと気づいた義勇だが、あまりの気持ちよさと温かさ、そしてそれを施している相手が宇髄だと思うと逃げる気にもならない。
 宇髄の両手はいつの間にか義勇の頬を包んでおり、しきりに唇を舐めてくる。
 思わず口を開くと、するりと宇髄の舌が咥内に入り込み、舌を舐められ絡め取られたところで思わず開いていた目を閉じてしまった。
「ん、ん、んんっ……ふ、っく……ん、んむ、ン……ンッ……」
 義勇は初めての濃厚な口づけに、心が落ち着かず手のやり場に困り、思わず宇髄の背に手を回してしまい、シャツをぎゅうっと力を籠めて握った。
 絡め取られた舌は丁寧に舐められ、そして唾液を啜り取られてしまい、その代わりに宇髄から大量の唾液が送り返されてくる。
 反射でのどを鳴らしながら飲み込むと、さらさらと頬を撫でられた。気持ちイイ。純粋にそう思える。口の中を舐められることがこんなにも気持ちがいいとは。
 宇髄の唾液は甘くて、とても不思議な味がした。いつまでも味わっていたいと思わせるような、そんな味だ。
 そのまま舌は上顎を舐めてきて、ぞくっと身体が快感で震えてしまう。
「あっ……うむっ……ん、う、うう、うっ!……んん……」
 すると、ふとなぜ宇髄がこのような行動に出て、そして自分はこんなにも感じてしまっているのかと我に返った義勇は、慌てて何度も宇髄の背を叩く。
 だが、宇髄はさらに義勇を責め立てるべく舌を動かしてくる。またしても宇髄の舌は義勇の舌を何度も舐め、柔らかく噛まれた時はあまりの心地よさに「うんっ……!」と啼いてしまったほどだ。
 どうして宇髄はこんなことをするのか。寝ぼけていて誰かと間違えているのか。そんな思考もトロトロに蕩ける頃、口づけが解かれる。
 義勇の息は完全に上がっていて、目に涙が溜まってしまって目の前にいる宇髄が見づらい。
「はあっはっ……うずい……」
 宇髄の手は義勇のあごを捉え、至近距離で宇髄が不敵な笑みを浮かべながら話し出す。
「冨岡。俺は派手に宣言するぜ。お前を俺のモノにする。……絶対にだ」
「俺の、モノって……どういう、ンッ!ん、ン!」
 訳が分からず問い返すと、その言葉を封じるように口づけられ、唇を大きく舐められる。
「こういう意味でだ。いいか、大人しくしてろ。今からオマエが俺のだっていう印をつける」
「しるし……?」
 両頬にぷちゅっと軽くキスされ、それに驚いていると今度は首元に顔を埋められ、舌で大きく首をべろりと何度も舐められる。これにも驚く義勇だ。
「う、宇髄!?あの、これどういう」
「どうもこうもねーよ。いいからお前は啼いてろ」
 またしても服の中に宇髄の大きな手が入り込んでくる。そして、胃の辺りを撫でたと思ったら今度は下腹辺りを中心に熱心に撫でられ、それもただの撫で方ではなく、そういう経験が無い義勇ですら分かるほどの性的な意味合いを含めたその愛撫に、大いに戸惑うが気持ちがいいのもまた、事実。

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