01 はじまりの吟


 舞台は中高一貫、キメツ学園。
 美術教師である宇髄天元、そして体育教師の冨岡義勇の二人のごくごく小さな恋物語が密やかに、幕を開けようとしていた。
 この日、授業中の今、義勇はそろそろ始まる期末テストの資料作りに精を出しており、自分の机の上に何冊も本を置き、せっせとキーボードを打っていると、呑気な声色で名を呼ばれた。
「おーい、冨岡」
「なんだ」
 声の主は宇髄で、職員室には珍しく義勇と宇髄、二人しかいなかった。義勇の方は静かで大変よろしいと思っていたのだが、どうやら宇髄にとってはただのヒマな時間でしかなかったらしい。
「あのよ、前から思ってたけどどうしてお前ってそんなにダサい服しか着ねえの?ひどかったのは春に来てたあの青色のジャージ。あれはひどかった」
 これには心外の義勇だ。自分は普通だと思っていたのだが、まさか宇髄にそんな風に思われていたとは。
「……ダサいか」
「ダサいね。俺だったら着ねえよ。死んでも着ねえ。つか、いま着てるそのシャツだって、カッコ悪いよ。なんかもっとねえの?」
「無い。というか、服など着ていればいい。それ以上でも以下でもない」
「いや、いやいや。それにしたってひどいぜ。それを自分で分かってないのが一番恥ずかしいと思うね、俺は」
 その言葉に、若干どころではなく落ち込む義勇だ。だとしたら、今まで学校へ着て来た服すべて、宇髄は格好悪いと思っていたことになる。
 だとしても、なにをどう服を買っていいものか、義勇には分りかねるのだ。先ほども言ったが、服など着ていれば良しという考えが昔から根付いていたので、実は宇髄のように面と向かってダサいと言われたことはなかったが、昔から周りの人間もそう思っていたということか。
 これは初耳かつ、羞恥を感じる。
「なにを着ていいか……分からんのだ。俺は体育教師だし、動きやすい服装をと心がけてきたが、そうか、ダサいのか、俺は」
 思わずキーボードを打つ手が止まってしまう。
 そして、俯き着ていたシャツを引っ張った。この服が、ダサい。しかし、義勇にはなにがダサいのかが分からない。理解できない。
 こんなことを言われたのは初めてなので大いに戸惑っていると、いつの間に距離を縮めていたのか傍には宇髄が立っており、椅子に座っている義勇を見下ろしてくる。そして、義勇の着ていた青色と白を基調としたシャツを引っ張り、そしてパッと離した。
「ちょっとそのシャツ、脱ぎな」
「何故だ」
「いいから。悪いようにはしねえよ、ホラ」
 言いなりになるにも癪だが、宇髄は何かしようとしている。義勇は思い切って半袖シャツを脱ぐと、インナー代わりとして着ていた黒シャツが姿を現し、宇髄も着ていた白色のパーカーを脱ぎ、義勇に差し出してくる。
「これ、着てみな」
 義勇は黙って受け取り、もぞもぞとパーカーを身に着ける。袖丈が合っていないので若干ぶかっとした印象を受けるが、宇髄は義勇のその姿を見た後、少し顔を赤くしたと思ったら大声で笑いだした。
「似合わねー!なんでなんだってくらい、似合ってねえ!なんでだ?この長い髪か?」
「う、宇髄、あの」
「いや、でもこれはこれでかわいさをアピールすることはできるか。うん、確かに似合ってはいないがかわいい。これはー……広い意味でアリだな。でも、フードはかぶらねえ方がいいかもな。キレーな顔がよく見えなくなる。よし、冨岡。今日一日、お前はその服を着てろ」
「いや、いい。返す。俺は自分の服がいい」
 すると、宇髄は脱ぎ捨ててある義勇の服をさっと取り上げてしまい、後ろに隠してしまう。
「宇髄!返せ!」
「だーめ。今日のお前はそれ。帰る時に返してやるから。あと、今日お前ってヒマしてる?してるんだったら、飲み行かね?そん時に、服みてやるよ。明日からお前は、ド派手に変身するっていう寸法だ。ダサいの、いやだろ?」
 最後の言葉にむぐっと口を噤んでしまう義勇だ。確かに、ダサいと思われるのはいやだ。だが、果たして宇髄は一体なにを考えているのだろう。なにを思ってこんなに親切にしてくれるのか。裏があるのか、ただの親切心なのか。
 分かりかねたが、義勇は薄っすらと頷いてみせた。
 すると、宇髄はまるで子どものような幼くそして無邪気な笑顔を見せ、義勇の頭にポンと手を置く。
「よしっ、決まりっと!んじゃあ、放課後に生徒が残ってないか見回りしたら、校門に集合な!言っとくが、バックレたら殺す」
 そう言って、宇髄は上機嫌な様子で義勇から離れて行った。
 残された義勇は、パーカーから香る宇髄のにおいを感じていた。薄っすらと油絵の具のにおいがして、それと同じくらいにこれは香水だろうか。何か人工的なかおりを感じる。宇髄本人からかおる宇髄のにおいは薄っすらとしか残っていなかったが、不思議なかおりがすると思った。なにか洗練されたような香りとでもいえばいいのか、とにかく不快なにおいではない。
 思わずパタパタと服を持って扇いでしまうと、さらに宇髄の持つにおいが感じられる。まるで、宇髄に包まれているようだと思い、義勇は自分のその考えに顔が熱持つのが感じられた。

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