※色気はありませんが、不健全なことをしてます。





「ねぇ、いいでしょ?」


この人はいつだってセックス前に言い訳をする。君のせいだよなんて、盛ってんのは自分のくせにと押し倒されながらいつも考える。会議の資料ずっと作っててさ、頭使って疲れた時はサクッとやっちゃいたいんだよね、だって?
こっちだって疲れてるのに勝手な言い草だ。レポートの提出期限は目前、休日前でバイトも忙しく明日は一限から授業が入っているのに。慣れた手つきで外された白のブラジャーがベッドからずり落ちるのを横目に、私はどうしてこの人が好きなんだろうと考える。
甘い言葉に赤面し、行為を恥じらう時期はとうに過ぎて、何となくそんな雰囲気になったらセックスする。友人の言った通り初めては痛いというより圧迫感と自分の中に別の物が出入りする気持ち悪さでいっぱいだったけど最近ではそれなりに気持ち良い。それだけなんだろうか。セックスなんて感情を取り除けば誰とだって出来るのに、この人でなきゃいけない理由は?

酷い事をたくさん言われて酷い事もされた。それなのに私はどうしてこの人と身体を重ねるんだろう。汗ばんだ額に張り付く青い髪と睫毛の下の暗い青を見上げてぼんやり考えていれば、随分と余裕だねと弱い所を突かれて思わず声が跳ねた。意地悪と皮肉ばかり口にするくせに、僕だけで頭をいっぱいにして欲しいなんて郁は時々ロマンチストで女々しい。私が飲み会に行くと言えば嫌な顔をするくせに自分は平気で女友達と遊びに行く。他人を傷付けるくせに人一倍痛がり。言ってしまえば、水嶋郁はとにかく面倒な男だった。


面倒な男との億劫な行為も終わり、後処理もそこそこに郁は私を布団の中へ引きずり込む。
拭き取りきれなかった精液が陰毛に絡まって乾燥する不快感という余計なものをこの男に教えられた私はシャワーを浴びるべくその手を振りほどこうとするも、力は強くなるばかりで逃げられやしない。

「どこ行くつもり」

眠そうな、くぐもった声が後ろから聞こえる。こうなった時の郁は絶対に折れない。シャワーを諦めた私はそのまま目を閉じる事にした。

「シャワー、浴びようと思ったけどいいや」
「……そう」
「おやすみ」
「……ごめん」

意外な言葉が聞こえて思わず振り返ったけれど顔はよく見えなかった。

「明日一限からでしょ?」
「え、うん」
「……」

そこで言葉は途切れて、気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。
言いかけて眠ってしまうなんて勝手だ。そのうえ面倒臭いし、意地悪だし、子供っぽい。なのに時々優しい。不器用なりに精一杯私を大事にしてくれているのがわかる。だから私はこの大きい子供を甘やかしてしまう。結局、面倒だなんだと言いながら私だって郁が好きなのだ。
寝息を首筋に受けながら私も目を閉じた。明日は一限からだけど、早めに起きて二人分のお弁当を作ろうと思う。
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