この学園の女子の制服は随分難解な構造をしている。タイピンは危ないのでテーブルの上に乗せてそのままワイシャツのボタンを外しにかかる。彼女はこそばゆいと言わんばかりに身じろぎして、ああまた駄目かもしれないと期待が萎んでいくのを感じる。胸元を開けさせればむわりとおんなの匂いがして、食道を消化液が逆流するのを感じた。あの時のように化粧臭くはないのに、僕は女という生き物が、いや、他人が嫌いだ。気持ち悪い。
生物学上僕は雄であり、不愉快にも思春期とかいう頭の悪そうな期間に突入しているらしいのでそういう事に興味がない訳ではないし欲求がないと言えば嘘になるけれど、自分ではない誰かと混ざり合うような事を想像するだけで具合が悪くなる。
思わず口元を押さえればそれに気付いた月子さんは先程の雰囲気はどこへやらビニール袋を取り出して僕に押し付けた。

「私颯斗くんのことは好きだけど颯斗くんのげろまでは流石に愛せないから私の上には吐かないでね」

その台詞に喉まで競り上がったものがゆっくり下がっていくのを感じた

「吐いたら一番に貴方にキスしてあげますね」
「うわ、無理やめて近付かないで」

喉に指を突っ込むふりをすれば彼女が本気で慌て始めたので可笑しくて笑った。一時期そうやって吐いて指が荒れた時があって、そんな指を見て彼女がざまあみろと笑ったのを思い出す。『颯斗くんの綺麗さって時々ぼろが出て可愛いのね』

「……すみません」
「なにが」
「僕は一応、貴方の事を好きなつもりなんですけど」
「一応ってなに一応って」

彼女は起き上がりワイシャツのボタンを閉めながら慣れた手つきでタイを結ぶ。

「贅沢者ですね、学園の女神を捕まえておいて気持ち悪いだなんて」
「女神ねぇ……誰かのものになってしまった私には皆あんまり興味がないみたいだけど」

と、彼女は濁すけれども以前より気安く誰かと喋れる事に安堵しているのを僕は知っている。僕となんら変わらない醜悪な内面を持ちながらもお綺麗な女神様を演じるのは彼女にとって苦痛らしかった。それでも表の美しさが守れるならいいではないかと嫉妬したのは一度や二度ではない。

「誰かのものになったらもう特別ではいられないとか、そういう意味では私なんだか本当にジャンヌダルクだとか神子だとかそんな神聖な存在のようです。
普通にこうして触れるのに、ね」

僕の頬へそっと手を添えて彼女は笑った。

「触れるけれど、僕は怖い。恋人としてどうかして、」
「あのねえ颯斗くん、一つ言わせて貰うけど」

添えたと思った両手で今度はばちんと僕の頬を挟んだ。ふふ、変な顔なんて笑っている……後で覚えていて下さいね

「こういう事する為だけの恋人ならこの学園の男と全員寝てみて相性が良かった人と付き合えばいいわけで、私が敢えてそれをしないで颯斗くんを選んだ理由を颯斗くん自身が本当にわかっているのかわからない時があるんだけどもそこんとこ大丈夫?」

なんだか全然わかっていないと言われているみたいで悔しかったので、僕も彼女の頬を両手で挟みさらに人差し指で鼻を押し上げると彼女は暴れ始めたけれども離してはあげません。さっき人の顔を笑った仕返しです。

「ええ、わかっていますよ。可愛い子豚さん?」


顔を真っ赤にしながらさらに暴れ出す彼女はいつも呆気なく、僕の防御壁を飛び越えてやって来て、僕の睨んでいたものをくだらないと言わんばかりに笑い飛ばす。
いつかでいい、何もかもでなくていいからもう少し多くの事を許せる自分になりたいと思う。とは、彼女に絶対言わないけれども。
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