きれいな指だと思う。すらりと伸びたきれいな指だ。ほんの少し日に焼けた、健康的で、きらきらと光る白球にほんとうにほんとうによく似合う。手にとってまじまじと見つめると、金色のうぶ毛が反射して言葉にできないほどきれいだ。ほんとうにほんとうにきれいだ。そうしてこの指が巧のものなんだと思うだけで、まるで奇跡の集合体のようだと圧倒されてしまうのだ。
あぐらをかいた巧を前にして、俺も同じようにあぐらをかく。巧が黙って手を差し出して、俺は生唾を飲み込んでそっと巧の指に触れる。いつ見てもきれいだった。あまりにうつくしいので、爪を整えてやることを一瞬、忘れてしまっていた。
―――指の関節がきれいだ。手の甲に浮き出た、笹の枝のような血管がきれいだ。爪のかたちがきれいだ。伸びた白い爪と、桜貝に似た桃色の爪の二相形がきれいだ。そしてこの指が巧のものなんだって知るだけで、俺の目にはまるで奇跡の集合体のように映ってしまうのだ。

「お前、その指フェチなんとかしたら?」
「は?」
「そんな血走った目で見られたら、任せてるこっちはたまったもんじゃないよ」

我にかえる。顔が熱くなった。

「あ、アホなこと言うな! おっ俺にそんな変な趣味、あるわけないじゃろ!」
「…へえ?」
「そっ、そんな顔すんな!」

にやにやと、巧が意地悪く笑う。豪ちゃん、顔が真っ赤ですよ、なんて言われたら、もう、この世の終わりのように思えた。
ひとつ咳払いして、巧の指に神経を集中させる。ひとつひとつ、丁寧に爪を磨いて、整えていく。ひとつ、またひとつ。
あぐらをかいた俺の脚に、削った巧の爪が白い砂になって落ちていく。不快ではない。雪みたいできれいと思ったくらいだ。

「…お前、ほんとうに好きだよな」

透明になった空気に、巧の息づかいが音もなく溶け込んでいく。
俺はまばたきを忘れ、巧の指をもっともっときれいにする。こびりついた泥を落とし、何度も何度も磨いた白球によく似合う、奇跡の集合体みたいな指になってほしいとひたすら願うのだ。その瞬間がどれだけの喜びと誇りで形成されているのか、きっと巧本人でさえ知らないのだろう。
きれいだきれいだきれいだと、お前にこの指を任せてもらえたことがどんなに嬉しかったか、またきれいになった指を見てありがとうと口元をあげてくれることがどんなに嬉しかったことか、巧、知らないだろう。……知らないだろう。

「終わったよ」

言うと、巧は俺に手のひらを見せるようにして、自身の爪を眺めていった。

「きれいじゃろ」
「うん。ありがとう」
「ほんま、日に日にきれいになってくな、お前の指は」
「豪がきれいにしてくれるからな」

巧はズボンのポケットから、使い込んだ軟式のボールを取り出した。
手のなかで転がして、感触を確かめるように握りこむ。

「似合うだろ」

ストレート。

「…似合うな」
「ほら、よく見ろよ、豪ちゃん。お前の大好きな指だぞ。あ、もちろん分かってると思うけど、お触りは禁止な。なんかパクッと食べられちゃいそうで」
「―――たっ、巧!」

声を出して、巧が笑う。
その瞬間、周りの空気は信じられないほど精錬に透き通り、俺は身体を固まらせて息を飲む。
きれいだ。
それしか言葉が思い浮かばなかった。



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