一緒に水族館に行って以来、カッツとわたしのケータイにはぶらんぶらんとおちょぼ口がキュートなマンボウさんがぶらさがっている。カッツは案外それを大事にしてくれているらしい。そんなカッツに学校の裏の木の下に呼び出されたのはそれからほどなくしてからだった。

「カッツ、どしたの?」

カッツはマンボウさんのついたケータイを握りしめて、どこかもじもじした様子だった。カッツは自分のケータイのマンボウさんと、わたしの握りしめたままのケータイにぶらさがったマンボウさんとをちらちら見比べて、なにやら口を開きかけたけれどすぐに俯いてしまった。

「カッツ、」
「あの、」

やっと口を開いたカッツのただならぬ雰囲気にわたしはびっくりしてしまった。カッツはいつもクソ真面目だけど、今日はもっともっとクソ真面目な顔をしている。いったいなにがどうしたというんだ。

「好きです」
「はい?」

耳を疑った。
今何つったよカッツ。好き?えっ、好き?

「はい、私はあなたが、好きなんです」

えっ?ちょ、ちょっ、ちょっとままま待ってよ、カッツわたしのこと好きなの?ええ、カッツってお市ちゃんが好きなんじゃなかったっけ?えええっ、

「そうです、でも、私はあなたが好きなんです。左近に言われて気付いたんです。付き合ってくれませんか、私と」
「えええ、うっうれしいけど、わたしカッツのこと…」

ずっと友達だと思ってたのに!いきなり好きとか付き合えとか言われても、そんなのわかんないよ。ていうかわたし誰とも付き合ったことないし、好きとかマジでわかんないよ!カッツのことは好きだけど、それってカッツの言う好きとは違う気がする

「私のこと嫌いですか」
「ちっ、ちがうよカッツ、カッツのことは好きだけどさあ」
「じゃあ、」
「ちょちょちょちょちょっと待って!とっ、友達に聞いてみるから…」

だっ、だっ、だっ、誰に聞いたらいいんだ。あっそうだ慶次!慶次ならこういうことには詳しそうだし暇そうだし!ええっとラインライン、ひとを好きになるってどういうことですか…ってなんじゃこりゃ。ええい知らんわ送ったれ!カッツはきょとんとしていた。そりゃそうだよね何を聞くんだって感じだよねごめんねカッツ…って返事早!どんだけ暇なんだ慶次の野郎…え、なになに

「その人とキスでき…はあ?」
「あ、あのみょうじさん」

慶次曰く、その人とキスできるって思ったらとりあえずはオッケーなんじゃないかな星マーク

「キス!キスだよカッツ!」
「えっ、は?」
「キスできたらオッケーらしいよ!キス!」

自分が何を言っているのかさっぱりわからなくなってきた。カッツの肩をがっしり掴んでキスキスと揺さぶるわたし。わたしマジでなにやってんの、でも思考がうまく回らない。RPGだったら頭の回りを星が舞ってると思う。

「キスしようカッツ!」

カッツは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして体をこわばらせていた。ごめんカッツ自分でも何言ってんのか全然わかんない。完全に頭がイってるんだと思う。なんだかすごい胸がドキドキするんだよカッツ。でもカッツ、キスできたらとりあえずわたしもカッツのこと好き?らしい?からさ慶次が言うには、とりあえずちょちょいっとチューしてみてさ、

私はぎゅっと目をつむってカッツの唇に自分の唇を押しつけた。ん?キスってこれで合ってるよね?ばっと唇を離すとカッツはその場に座り込んで、口元を手で覆って顔を真っ赤にして、ぜえぜえはあはあ言っていた。

「か、カッツ…キスできたよ…」
「なっ、なにして…」
「つっ、付き合おうカッツ!」

座り込んだカッツの肩をまた勢いよく掴んだ。またさっきみたいに訳も分からずブンブンカッツの肩を揺さぶる。カッツの表情は蛇に睨まれた蛙というかなんというか、完全に怯えていた。
わたしはもうどうしたらいいのかわかんなくなって、じゃあそういうことで!とその場を走り去った。家に帰って事の重大さを理解したわたしは、頭を抱えて最高に死んでしまいたくなるのだった。