カッツはわたしの友達である。わたしには友達がそれなりにいるけど、カッツには友達が島くらいしかいないので、わたしはたぶんカッツの唯一の女友達である。カッツは根暗だけどまあ悪い奴じゃない。なによりカッツは妖怪オタクだから、魚オタクのわたしの気持ちをわかってくれて、さかなクンとか呼ばない(そう呼ぶ連中はさかなクンに失礼とは思わないのだろうか?)。
「いやあ〜オヒトリサマで水族館って、ちょっと寂しいモンがあるんだよねえ。サンキューカッツ」 「いえ、私は別に」
謙虚なところもカッツのいいところだ。服はダサいけど。カッツはわたしが魚のウンチクを話しても嫌な顔ひとつしないし、マジでいい奴だと思う。Tシャツがガンダムなのはこの際どうでもいい。
「ぎゃーカッツ!見てコレちょうかわいくね?」
ミュージアムショップは水族館の醍醐味のひとつだ。ずらっと並んだ魚のぬいぐるみストラップを前にしてわたしは思わず大声でカッツを呼び寄せた。カッツは音もなく静かに寄ってきて(これにいつもビビる)、かわいいですねと言った。やっぱりカッツはわかってる。
「コレやばいよー、アンコウちょうかわいい。あっでもマンボウもいい。ぎゃー見てコレ、モンガラカワハギくそかわ選べねえちくしょう」 「マンボウが…いいんじゃないですか」
うんマンボウかわいいよね。でも選べないよだって全部かわいいもん。カッツだって妖怪ストラップがこんなに並んでたら選べないよね?!
「どれで迷ってるんですか」 「コレとコレとコレとコレ」 「…少し待っていてください」
カッツはわたしが指差したストラップを全部握りしめてすたすたどっかに行ってしまった…って、ん?そっちはレジ…気付いたときにはカッツは財布から英世さんをおねーさんに渡していた。
「…どうぞ」 「ええっ?!くれるの」 「ほしかったんですよね」 「いやまあそうだけどでもさあ」 「気にしないでください」 「サ、サンキューカッツ…」
カッツ男気半端ねえ。カッツはすでに干物コーナーを物色していた。わたしはずらっと並んだストラップの中からマンボウさんをふんだくってレジに速攻で持って行った。レジのおねーさんがクソびっくりしてた。そんなんどうでもいい。わたしはカッツにマンボウさんの入ったビニール袋をブン投げた。ナイスキャッチカッツ。
「カッツ!せめてものお礼!」 「えっ」 「マンボウさん!オソロ!ごめんあんまり嬉しくないね!」
カッツがマンボウがいいんじゃないですかと言ったから何にも考えずにマンボウを買ってしまって、オソロになることをすっかり失念していた。まあ買ってしまったものはしゃーない。ごめんよカッツそろいのマンボウなんて嬉しくないわな。
「う、嬉しいです」
心なしか頬がほんのり赤いカッツ。嬉しいですのその言葉はどうにもお世辞じゃなさそうだった。マジかよ。カッツマンボウ好きなのかー!マジでー! 帰り際カッツは早速ケータイにマンボウをつけていた。カッツの味気ない黒のケータイに間抜け面のマンボウさんがぶらさがっているのがなんだか笑える。わたしもケータイにマンボウをつけるとカッツはそれを見てふいっと顔をそらした。
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