みょうじはひどく落ち込んでいた。詳しいことはあまり知らないが、かなりの落ち込みようだ。隣で唇を噛みしめて、こぼれるかこぼれないかのギリギリに涙をためている。なんと声をかけていいのか、俺にはてんで見当もつかなかった。下手なことを言ってこいつを傷つけたくはない。かといって何も言わないではどうともならない。俺はそんなに器用じゃないんだよ、と腹の底で渦巻く言い訳が無性に腹立たしい。福ちゃんは何も言わずとも人を励ますことができるだろう。新開や東堂は、欲しい言葉を欲しいままかけてやれるだろう。泉田は、真波は。生憎俺にはそれらのどんなスキルも持ち合わせちゃいなかった。もともと人を励ますだの慰めるだの元気づけるなどそういったことは柄じゃない。
みょうじが小さく嗚咽を漏らす度、俺の体はびくんと震えた。慣れないことはするべきじゃない、なんてことは分かり切っているがたとえ俺でもこの状況で何もしないとか、ありえないだろう。何か、何か言ってやらなければ。変な責任感が俺を支配していた。
「あのさァ」
みょうじが俺を見ることはなかった。思うにこの時点で俺の脳は正常には機能していなかった。人は過ちを犯して初めて事の重大さに気付く。まさにその通りだ。
「大丈夫だって、頑張れよ」
口にしてからはっとした。何故って、口をついて出たのはあろうことか自分が一番嫌いな言葉だったからだ。頑張れなんて言う奴がなあ、俺ァ嫌いなんだヨ。そう言ったのは他でもない俺だった。それなのに、俺は。
「荒北だけはそうやって言わないと思ってた、のに」
みょうじの心底失望した顔がそこにあった。