秋の光が暖かく差し込む。そんな中で、彼はピアノを弾いていた。柔らかで美しい旋律に、私は時も忘れて聞き入ってしまった。ピアノ椅子に深く腰掛ける背の高い彼は、手も大きいから様になる。 「すてき」 漏れた言葉に彼は優しく微笑んだ。どんな瞳をしているのかはよくわからない。 「なんていう曲?」 「亡き王女のためのパヴァーヌ」 「へえ、鎮魂歌なんだ」 「違う。ラヴェルは音韻が面白いからこのタイトルをつけたと」 彼はそう言いかけたけれど、言葉を切り自分へのレクイエムのつもりだと自嘲するように言った。そう、彼の命は長くはない。 「そんなこと」 私の言葉に彼は耳を貸さなかった。彼自身は己の運命を受け止めているらしい。その証拠に彼はひどく、ひどく穏やかである。 「次はなにがいい」 「私、クラシックはわからないんだってば」 「そうか、ならば」 俺と同じ名の曲を。 月光。その旋律はひどく涙を誘った。
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