微妙にこれの続き



半兵衛様が死んだ。豊臣は以来おおわらわであり、わたしも半兵衛様の仰った通り行く当てをなくしたのだが、半兵衛様の生前の手引きでとんとん拍子に三成様への輿入れが決まった。まったくあの人は、いらぬところも用意周到である。というより、あれは本気だったのか。三成様は断固としてお断りになるだろうと思っていたが、半兵衛様の仰せであったことと秀吉様のお口添えもあり二つ返事で了承したという。なんと不可思議なこともあったものだ。

三成様との生活は、思ったよりも快いものであった。どれほど手ひどく当たられるだろうと身構えていたから余計に、三成様の態度は拍子抜けするものがあった。三成様はわたしにいたく優しくなさるのである。わたしは半兵衛様を亡くした寂しさを、三成様で埋めていた。

三成様の手は、やさしくわたしの頬に添えられていた。平生はあれほど乱暴であるのに、わたしを抱く手はそのお心のように繊細であった。白い肌、煌めく銀髪。わたしは少なからず三成様に半兵衛様を見ていた。褒められたものではないとわかっていながら。そっと寄せられる唇など、半兵衛様のそれであった。

「硬い御髪」

お顔が離れるその瞬間に、三成様の前髪がわたしを掠めた。そのときわたしはふとそんなことを口走ってしまう。あっ、と思ったときにはもう遅かった。三成様は鋭い瞳でわたしを見据えていた。

「…半兵衛様のことか」

色恋に関しては鈍感だと聞いていたのに、流石半兵衛様の部下というものか、三成様は察しが良い。半兵衛様が以前、三成様を賢く理知のある子だと評していたのを思い出した。

「貴様が半兵衛様と懇意にしていたのは知っている」
「…申し訳ありません」
「忘れろとは言わん。私も半兵衛様を忘れたくはない…」

三成様はすうっとわたしの頭を撫でると、目を細めて唇を寄せた。三成様の体温は決して高い方ではないのだが、どうしてかひどくあたたかい。

「三成様、」
「戯れ言はいらん。黙っていろ」

あなたさまもわたしに半兵衛様を見ておられたのですか、わたしがあなたさまに半兵衛様を見ていたように。その言葉は三成様に遮られてしまったが、きっと届いてはいるのだろう。

「私だけを見ろなどと、まだ言うつもりはない」

小さく掠れた声で三成様は呟いた。

「だが今だけでいい。今だけは、私を」

今度はわたしが三成様の言葉を唇で制した。丸く見開かれた三成様の瞳。するすると身を寄せて、細い首に抱きつく。わたしの背に恐る恐る手を添えられた三成様がひどく愛しかった。

「はい、三成様」