力強く跳ね上がった濃いアイライン、ばっさばさのつけまつげ、ブラウンのカラコン、赤チーク、グロスの塗られた唇。俺の知るみょうじはそうやっていつも厚化粧に身を包んでいた。化粧崩れを気にして、自分の見栄えを気にして、みょうじはいつもキラッキラに着飾っている。すっぴんを見せてくれたことはなかった。セックスの時もそれは変わらず、ヤり終えたあと彼女が気にするのは決まってその顔である。みょうじとのキスはレモン味なんかではなくグロスの化学的な風味だった。
「みょうじはきっとすっぴんもかわいいショ」
そう言うと決まって複雑な顔をするのは、素顔にコンプレックスがあるからだと勝手に踏んではいた。俺はみょうじがどんなブスだろうとそれを原因に分かれたりする気はない。俺だってどちらかというとブサイクの部類に入ると思うからだ。
「俺は、化粧してないみょうじも絶対好きだから」
ファンデーションの塗りたくられた肌に触っても、恋人である気がしなかった。グロスの塗りたくられた唇にキスしても、愛が伝わる気がしなかった。カラコン越しに見つめられても、みょうじの気持ちが分かる気がしなかった。
「だからさ今度、すっぴん見せろよ」
化粧を否定するつもりではなかったのだ。俺はただみょうじに一線引かれている気がして、それがただ寂しかっただけなのだ。普段バリバリに化粧してようがなにしてようがそれでいいから、俺といるときくらいすっぴんでいられると思ってくれればそれでよかったのだ。だがみょうじは、
「じゃあ、別れよっか」
化粧を落とすくらいなら俺を捨てるらしい。